井の頭歯科

「極夜の灰」を読みました

2024年12月14日 (土) 09:25

 

サイモン・モックラー著   冨田ひろみ訳   東京創元社文庫
小島秀夫さんがラジオでオススメしていたのですが、そのオススメの仕方が大変に興味をそそり、手に取りました。
私の感想よりも小島秀夫監督のオススメを聞けばそれで良いのですが、私の備忘録なので・・・
1967年12月。アメリカCIAの陸軍病院で精神科医のジャックは頭と手を包帯で包まれた男と話をする事になります。ジャックはCIAの職員ではありませんが、CIAに勤める旧友から、時々このような仕事を任されています。しかし今回はなかなか変わった事件で・・・というのが冒頭です。
ミステリであり、どちらかと言えばハードボイルドなジャンルに分類されてもイイと思います。
アメリカ軍が秘密裏に、グリーンランドにとある施設を建設。その施設そのものは放棄する事になったのですが、その際3名の隊員が残されてしまい、救出に向かうと、完全に形を残さない程の焼死体というよりも歯と骨の塊の遺体、そして原型を留めている焼死体、そして手と顔面に重度の熱傷を負った男1名だけが救出されます。しかしこの男は記憶喪失になっていたために、精神科医ジャックが呼ばれたわけです。
この段階でかなりの謎が散りばめられています。一体何のための施設だったのか?何故3名が取り残されたのか?そして火災の原因は?何故焼死体の程度がこれほど違うのか?男が記憶喪失になったのは何故か?
この謎を解いていくわけですが、非常にリーダビリティが高く、ハードボイルド風味に仕上がっていて、謎解きのカタルシスも素晴らしく、帯のうたい文句のとおり、「真相の『その先』に、また驚く!」とありますが、本当にその通りでした。
映画化されそう!そして、凄くメタルギアソリッド的な話し。小島監督がオススメするのも納得です。
ネタバレにもならないのですけれど・・・私、この小説の登場人物の中でも特に家から連れ出された人が、かわいそう過ぎる・・・

「A子さんの恋人」を読みました

2024年9月10日 (火) 09:14
近藤聡乃著     KADOKAWAコミック
ラジオでオススメされていたので手に取りました。私は昔阿佐ヶ谷在住だったので、より親近感を持ちましたし、中央線の中で住みたい街では個人的№1です。
新しい少女漫画だと思いました。
少女漫画に詳しくないのですが『普通の少女が、自分でも自覚していない魅力を、複数のタイプの違う異性に見いだされる。ときめきが大切』な話しと認識しています。最近はBLという分野もありますし、異性とは限らない世界に突入している感もあります。
これが少年漫画だと、めちゃ単純に『努力、友情、勝利』なわけです。最も、少女漫画の対象年齢、少年漫画愛好家の年齢など、どんどんカテゴライズする意味は失われてきていますけれど。
で、その新しいタイプなんだと思いました。29歳の女性を少女と呼ぶのか?という問題もあるかと思いますが、それを言ったらどんなに年齢を重ねたおじいさんでも少年の心があるように、女性にも少女玉のような少女性の凝縮された何かがあると思います。少女玉っていう表現始めたの誰でしたっけ?森茉莉でしたっけ?佐野洋子でしたっけ?玉も魂だったかもですけれど。まぁ男性は年齢を重ねたからと言って成熟するか?の確率はとても低くて、それだけ馬鹿でいられる社会なんですけれど、女性は多分そうはいかない社会なので、今も変わりつつあるけれど、まだ全然でしょうし、出来れば男性も成長しないとイタイ目に会うように成熟して欲しいとは思います。
A子さんには日本には縁の切れなかった懐に入るのが上手いA太郎がいて、アメリカには懐が深いA君がいる状態で、これは自主的に選ぶのであれば答えは決まっているのでしょうけれど、そこをディティールで補強してどちらに転ぶかワカラナイ状況にするところが上手いです。絵は高野文子先生の「るきさん」を考えていただければ間違いないです。
周囲の人間も、硬めのK子さん、やわめのU子さん、典型的なよくいるI子さん、とキャラクターがいろいろ分かれていて面白いです。
しかもセリフもかなり洗練されています。地域的に、阿佐ヶ谷、千駄木、谷中、上野辺りに興味や住まいがあった方に、オススメします。

岩明均著「ヒストリエ」・・・

2024年7月2日 (火) 09:24

今回は漫画 岩明均先生著 「ヒストリエ」のネタバレがあります。とは言え、古代マケドニアの歴史なので、ネタバレと言えるのか?考えさせられますが、とりあえず12巻まで出ている漫画のネタバレがあります。その点注意してお読みください。

 

https://www.youtube.com/shorts/GijU_ksviT0

 

 

連載が始まったのは2003年3月からとの事(wiki調べ)で、それって20年以上前の事なんですが、単行本では2024年6月に12巻が出ました。

 

著者である岩明先生がデビュー前から温めていた企画と聞いていますし、誰でも知ってはいるけれど、詳しく知っている人は少ない、あのアレキサンダー大王に関連する話しです。

 

あまりに面白くて、だからこそ、日本語で読めるアレキサンダー大王関連の書籍は結構読みましたし、ネットでも調べてみると、いろいろな事が分かります。中でも岩波のアッリアノス「アレクサンドロス東征記」は読みごたえも十分ですし、時系列もはっきりしますし、面白かったです。

 

でも調べれば調べるほど、アレキサンダー大王(というのは通称で、正確にはアレクサンドロスⅢ世)の父である、フィリッポスⅡ世の事が気になります。

 

 

確かに、アレクサンドロスⅢ世の勢力拡大、最大版図、そのエピソード、魅力的ですし、誰もが憧れる(後の世の英雄と呼ばれた、カルタゴのハンニバル・バルカ、ローマのユリウス・カエサル、フランスのナポレオン・ボナパルト、その他大勢)ヒーロー像としては並び称される人は皆無の人に見えます。まさに天才、神がかった能力に見えます。

 

 

でも、それはフィリッポスⅡ世が居たからこそ、なのだと気づくと、フィリッポスⅡ世の事が知りたくなります。全くの一地方の小国の王になるところから、アイディアや軍事、外交、内政、に革新を起こし、勢力を拡大、たった40年ほどで、ギリシア世界の統治者(コリントス同盟)になり、ペルシアと闘おうとした男。こちらの方が評価されてもイイと思うのです。

 

 

それなのに、フィリッポスⅡ世の資料や記述が少ないのです・・・アレクサンドロスⅢ世の記述と比べると、圧倒的に少ない。

 

 

アレクサンドロスⅢ世が天才で直観で人間味あふれる人物だとすれば、フィリッポスⅡ世はもっと合理的で論理的で目的的な秀才、という風に見えます。

 

 

そしてこの漫画は、そのフィリッポスⅡ世に仕え、岩明先生の言葉を使うのであれば、歴史を記録する者から、歴史に記録される側になった人物、カルディアのエウメネスを主人公にしています。

 

 

紀元前330年くらいの時代、残された資料にも食い違いがありますし、散逸した資料も多く、なんなら重要な作品であっても、すべてが現存している訳では無く、現存する多くの記録は、その後のローマの時代、つまり1世紀くらいの頃の資料が多く、つまり300年くらい後の人の手で(その当時には残っていた資料を基に)書かれているわけです。これは2024年の私が300年前の1700年代の江戸時代初期の事について書いたものが、西暦4000年くらいの人に読まれる、という事になります。

 

 

岩明先生のスケールの大きさ、その着眼点の鋭さ、画力の素晴らしさに心打たれます。

 

 

完結はしない、とも思いますし、でも、岩明先生のやりたいやり方で発表されるのをただただ、読者である私は待ちたいです。

 

 

ちなみに、紀元前343年にカルディアをフィリッポスⅡ世が攻め、同時にあの偉大な哲学者アリストテレスがスパイ容疑でアジアからヨーロッパに逃げ帰ったのと同時期に漫画はスタートし、エウメネスの幼少期に戻ってから、12巻で紀元前336年の大きな出来事を描いています・・・20年かけておよそ(回想に3巻分くらいありますけれど、それもパフラゴニアのノラの村、という事で、カッパドキアと近いと言えなくもないから、ディアドコイの最中に囲まれる、あのノラとの関連が無いとは断定出来ないから、寄り道ではなく伏線の可能性も・・・)7年が経過したわけです。

 

 

当然、記録する側から記録される側になる、には、記録している時の活躍、重要です。そして、記述は散逸してしまっていて不明だからこそ、東征記の中で、エウメネスとヘファイスティオンの諍いについても明かされて欲しいし、その後の活躍、ディアドコイ戦争の戦いを描くため、ペウケスタスも出している訳ですし、当然、アレクサンドロスⅢ世に心酔する、妄信するペウケスタスを描かないと面白味は半減してしまいます。

 

 

だから、ペウケスタス以外にも、クラテロスも、カッサンドラも、アッタロスも、アンティゴノスも、それこそ登場人物は山のようにいますし、どの人も重要と言えば重要です。この群像劇での東征記の様々な出来事があるから、ディアドコイの葛藤が描けるわけで、端折れないですよね・・・

 

 

アレクサンドロスⅢ世はエピソードの宝庫ですし、これまでに描かれたのは、ブケファラスの事、カイロネイアの戦い、ミエザでのアリストテレスによる学校教育、オッドアイ、くらいです。ここにこの漫画での、重要な解釈の一つであるヘファイスティオンの人格同居が描かれています。

 

 

12巻現在でおよそ20歳、紀元前336年、ここから32歳で没するまで12年あり、大雑把にエピソードを列記すると

 

ギリシャ世界の反乱と再統一、ディオゲネスとの邂逅(アレクサンドロスⅢ世で無かったらディオゲネスになりたかった)、東征開始、メムノンとの闘い(メムノンの焦土作戦が採用されていたら・・・)、ゴルディアスの結び目(ジャンプの主人公みたい)、グラニコスの戦い(クレイトスの活躍)、イッソスの戦い(ダレイオスⅢ世と妻子供とヘファイスティオン)、テュロス包囲戦(1キロ離れた孤島攻略の為に、陸地を伸ばして半島にする)、エジプト無血開城と神託(ファラオになった男)、ガウガメラの戦い(ペルシア滅亡とバビロン入城)、フィロータスとパルメニオン親子のアレ(史実として、どうだったのでしょう・・・)、バクトリア攻略(中央アジアへ、ロクサネとの結婚)、各地でアレクサンドリア都市建設、クレイトス事件(王の命を救った英雄を・・・)、インド遠征(ポロス王との闘い)、演説の失敗と東征断念(コイノスの演説は聴きたい)、インドの哲学者との邂逅、多分この辺でエウメネスとヘファイスティオンの諍いとアレクサンドロスⅢ世の仲裁、ヘファイスティオン急死、バビロン帰還、アレクサンドロスⅢ世病没(?)、で紀元前323年です。

 

 

バルシネ(メムノンの奥さん、というかメムノンのお兄さんメントルの元妻で、後のヘラクレスの母で、ヘラクレスの父はアレクサンドロスⅢ世)だって1巻から出てきていますし、メムノンも登場している訳で、焦土作戦の却下は描いて欲しいです。そしてアリストテレスと文通しているわけで、地球儀をこれだけ出している訳で、東征断念の際の演説は聴きたい。

 

 

この東征の中の後半で、記録していた人物が、記録される側になる出来事があり、さらに、アレクサンドロスⅢ世の死後、後継者争いであるディアドコイが始まります。

 

 

ペルディッカス派と見られたために、アンティパトロスから討伐の意味でクラテロス(この漫画では 王の左手 の2番目の候補者!)との闘い、ペルディッカスが裏切られて死亡、アンティゴノスとの対決、カッパドキアのノラで攻囲される、アンティパトロスの死亡と後継者ポリュペリコンとアンティパトロスの息子カッサンドラの諍い、ポリュペリコンとエウメネスの共闘、アンティゴノスとの闘い、死亡が紀元前316年ですから、アレクサンドロスⅢ世の死後さらに7年あるわけです。

 

 

オリュンピアスの、パウサニアスとの話しを考えると、当然、エウメネスとオリュンピアスの関係も、かなり重要になります。そして12巻で描かれた、エウリュディケの「将棋」の500手先を考えると、かなり重要な関係性があると思います。オリュンピアス、そしてフィリッポスⅡ世という夫婦の関係性と託された事を考えると、非常に難しい立場に立たされるエウメネスが今から気になります。

 

 

 

この漫画の中でアンティゴノスという人物はまだ出てきていませんが、アンティゴノス、という言葉は出てきています。もしこれが伏線なら・・・

 

 

今までのペースだと、仮にエウメネス死亡までの残り19年あるわけで、概算で54年くらいかかります・・・でも、それでも、岩明先生の好きなスピードで、好きなタイミングで書いていただきたい。読めるなら幸せです。ちょっと今ペウケスタスの気持ちが分かる気がする。

 

 

 

 

もし完結しなくたって、こんなに素晴らしい漫画はそうは無いですし、感謝こそすれ、ただアレクサンドロスⅢ世を想うペウケスタスの気持ちで、ただ推移を見守るだけです。岩明先生の健康を願うばかりです。

 

 

そして、連載開始当時、Wikipediaには、エウメネスもほぼ記載がなく、フィリッポスⅡ世についても詳しい記載は無かったのですが、古代マケドニアの事が非常に細かく記載され、充実した事をもってしても、この漫画がいかに偉大な漫画なのかが、当時からいろいろ調べてた身としては、証明できると思います。ただ、Wikipediaもネットも、更新された場合の、過去の状況が全く分からなくなってしまう事が残念です。この感覚は20年ほど前から調べている人にしか分からないと思います。

 

 

手塚治虫先生の「グリンゴ」だって未完でしたし、みなもと太郎先生の「風雲児たち」だって未完でした。

「死なれちゃったあとで」を読みました

2024年5月10日 (金) 09:09
前田隆弘著     中央公論新社
タイトルで手に取りました。
非常にライトな語り口で、するすると読めます。しかし、なかなかにヘヴィーな案件を扱っています、何しろコンタクトが取れなくなる相手の話しですから。
死について考える事は、おそらく、世界の文学上の最も大きなテーマでしょう、あとの半分近くが愛でしょうし。そして、哲学においても最も大きなテーマの1つだと思います。そして憑りつかれている人も多い。
私も親和性が高い感覚がありますし、単純に興味があります。謎ですから。
著者は初めて知りましたけれど、かなり誠実に向き合っていると思います。もっと頻繁に書籍に触れていた頃なら1日で読めたと思いますが、今は3日くらいかかりました、本当に読書から距離をとってしまったなぁ・・・昔はもっと読書に身体性的親和性があったのに・・・やはり能動的な趣味には常に怠らない訓練が必要です。
どの話しも素晴らしいけれど、後輩Dの話しがやはり軸ですし、大きい。
凄く読んで良かった。
これを、深夜にストレートの強めのお酒をちびちびやりながら蛍光灯の下で読んだ感覚がとても良かった。

「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」を読みました

2024年3月8日 (金) 08:52
小野寺拓也 田野大輔著     岩波ブックレット
ネット社会になって1番良かった事って、私にとっては、調べる手段が増えた、に尽きると思います。ネットが無い世界だったら、まず間違いなく、図書館。それ以外ですと、知っている人に直接聞く、しか方法が無かったと思いますし、知っている人が誰なのか?すら分からなかった世界です。なので、知っている人に会った場合、失礼にならないように気を付けはしますけれど、いろいろ伺ったりしますし、その対価を何も払えない状況だと、聞きたくても聞けない、という事になります。そう考えると、ネットのありがたみを凄く感じます。
しかし、ネット社会のルールがまだ完全に確立していない事で、わざわざ出会わなくても良い人が出会い、そして礼儀が無い事で、凄くぎすぎすした関係や険悪な感じになる事が多いのが、ネットの私が考えるデメリットです。
その中でも、カエサルが言うように「人は見たいものしか見ない」がより強まった気がしますし、検証をしない人が多い気がします・・・私も含めてです、当然。当たり前ですけれどリテラシーって必要ですし。
その中でもポリティカルコネクトネス、新たなルールというか、概念ですし、まだ慣れない事で、軋轢があるのだと思います。
専門家だからこそ気付ける事があると同時に、専門だからと言って鵜呑みにも出来ません。そして物事を言い切るのって、とても慎重な判断が求められると思いますし、言葉ってホモサピエンスにとって最も有効なコミュニケーションの手段です。つい、相手が見えない事から、強い言葉を使ってしまう事があります。私も気をつけたい。
同時に言葉は残る、記録に残るわけで、その事に対してもう少し配慮があっても良いかと思います。
この本はネット上で一方的な批判を受けた専門家が、歴史的データを基に反論した書籍ですが、まぁ言い分は最もだと思います。それに割合知られていた事も多い気がしましたが、読んで理解出来ました。
それでも、多分、ネットの中で批判してきた人々には届かないんだろうな、という感覚もあります。凄く、砂漠に水を撒くような行為にも見えるけれど、誰かが少しでも水をまき続け、反論し続けないと、どうにもならない気がします。
話しが通じない人に何かを届ける事を考えていた時期もありましたが、残り少ない時間を考えると、出来れば話が通じる人と話がしたい、という風に意見が変化してきました。
それでも、多少は話しを、同意を得る為の、相手も生きているホモサピエンスであり、敬意を払うべき対象であるという認識は必要だと考えています。
難しい態度が求められると考えています。
ナチスの成果について、詳しく知りたい方にオススメ致します。
ブログカレンダー
2024年12月
« 11月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  
アーカイブ
ブログページトップへ
地図
ケータイサイト
井の頭歯科ドクターブログ