小林 信彦著 新潮文庫
友人からお借りした本、小林 信彦さんだったのと、結構好きな伊東 四朗さんに言及しているというので読みました。
植木 等さん、という喜劇人についての章は、とても細かく、もちろん著者もその周囲の人であったにも関わらず、非常にフラットな目でクールに書かれていて、さすが、という感じを受けました。伝記モノ(この本が出版された当時は生前であったのでしょうけれど)はおそらくその人物に対して非常に強い思い入れがあるからこそのものなのでしょうけれど、それであってこれだけフェアに書かれているのにはかなり驚きを感じます。それでいて自身の影が消えているわけでもなく、ちょっと他では(私の感覚と読書経験で言うと、ですけど)見たことの無いような距離のとり方と公平性です。
もちろん、思い入れの強い人からすると、もっといろいろあるのでしょうけれど、喜劇人「植木 等」のかなり底まで肉薄しつつ、愛情と尊敬を感じさせる周辺記、素晴らしかったです。こういう書き手で笑いに理解ある言葉と文脈と文章で残せる方はかなり珍しいのではないでしょうか。特に笑いについては、残念ですが個人的好みから、今のテレビを見ると、どんどん離れていくのでそこも実はこういった評価をする人が圧倒的に少なくなったからなのではないか?と思います。オーバーアクションと何かをアゲツラウ、貶める笑いもダメではないですけど、ちょっと多すぎると思いますし。奇特なものを笑うのもそればかりでは食傷ですし、正直あまり心地よくは無いです。
もう1人の藤山さんについては全く知識が無いのでドンナ人なのかも知らなかったのですが、かなり苦しくも厳しくキツイ生き方をされた方なんだろう、と納得させられました。
そして文庫版での追補として伊東 四朗さん!ココが読みたくて借りたのですが、やはり伊東さんは私の中ではかなり好みの方ですし、小松政夫さんとの掛け合いなんか最高でしたし、私はベンジャミン伊東からの伊東さんしか知らなかったので、この展開が以前の伊東さんを知る方からは驚愕と、小林さんからは絶賛されたのだと知ったのが意外でした。でも伊東さんのはっちゃけ具合と、そこはかとなく漂う雰囲気のギャップ(私にはどこかしら狂気ではない、醒めた、しかし諦観ですらない何かを感じます、にんっ、とか)と、どうしても完全に周囲に溶け込めない何かを抱えているように見えます。
喜劇人の時代の流れと、小林 信彦というフラットな目を持ち、関係を続けていける稀有な観察者の日記のような、それでいて愛溢れる伝記ものに興味のある方にオススメ致します。