黒澤 明監督 東宝
多少のネタバレを含みます。有名な作品ですが、未見の方はご遠慮くださいませ。
「用心棒」で出てきたキャラクター桑畑三十郎の新たな活劇です。もちろんキャラクターが引き継がれているように見えるだけで、ことわりがあるわけではありませんが、どう見てもあの、桑畑三十郎です。
ある若い侍たちの密談(藩の中枢の汚職事件の告発)を聞いてしまった侍(三船 敏郎)がその若すぎる侍たちの義挙に悪態をつきながらもチカラを貸す、という話しです。もうこれがとてもオーソドックスで面白い!まさにストレートな格の違いを見せ付ける映画です。
まず、前作とキャラクターという意味では同じ侍・椿三十郎が飛びぬけて面白く、しかもその演技にも磨きがかかり、その魅力を引き出す脚本が素晴らしい。前作の「用心棒」ではめし屋のオヤジというキャラクターも面白かったのですが、今回は若い侍たちの中にあの、加山 雄三や田中 那衛がいて、しかもこの2人が妙に空回りする真面目すぎる滑稽さが面白いです。まさに青二才、という滑稽さです(私も未だ青二才なんですが)。冒頭のシーンで床下から頭を続々と出すシーンのような可笑しさを出すのも動きで面白く見せるというのが良く、そんなシーンがふんだんにあって上手いです。
脚本の練られ方に感嘆させられますが、侍・椿の機転の利かせ方、そして相手役の小悪党や、懐深さまである好敵手との掛け合いの妙があって、本当に素晴らしいです。また秀逸は今回はもちろん好敵手、室戸(仲代 達也)なのでしょうが、忘れられないのがそれ以上の存在感を出す夫人の存在です。いろいろと無理難題を言ってみたり、緊張感を無くす発言があったりで面白いんですが、その懐の深さは本当に素晴らしく、言葉で、演技で滲み出させるのが、もう見事としか言いようがありませんでした。こういう言い方は恐らく悠久の太古から言われているのでしょうけれど、昔の役者さんの上手さ、という表現を使いたくなってしまいます。また使っても良いと感じさせるくらい上手かったです。そう考えると、こういう役を出させる脚本、さらに演じきれる役者をキャスティング出来ることを含めて、黒澤監督の凄さを感じました。
水の流れを使った合図の演出の素晴らしさも特筆すべきだと思いました。これ以上ないくらいに画面が(モノトーンなのに!)映える凄さも、またそのクライマックス性も相まって素晴らしいです。
のほほんとした青二才の集団を助けるという構図、捕まった手下の命を助け捕虜として扱われている男の処遇とズレる滑稽さ、最後に出てきてもの凄い説得力ある、あの夫人の旦那で城代家老の上手さと人柄までもを、顔と表情と短い出演時間でも説得力ある演技を見せる凄さ、全く素晴らしい作品でした。あれだけ見事な「用心棒」を越える素晴らしさだと思います。
そして、何よりあの城代家老の〆をもって終わらせることも出来たうえでの最後のリアリズムとショッキングさが、〆の上にもインパクトを与え、凄かったです。
邦画の底力を、黒澤作品3作の中でもダントツに様々な要素を盛り込み、盛り込みすぎない、そして的確な長さであることの凄さも含めて、オススメ致します。
愛すべき作品だと思います。