NHK「文明の道」プロジェクト NHK出版
漫画『ヒストリエ』岩明 均著はアレクサンドロスの時代のある男を追った物語なのですが、非常に続きが気になります。1年に1冊しか刊行されませんし。でもそのクオリティを考えると仕方ないです。原作のあるものが映画化される場合、基本的には先に原作を読んでから映画化されたものを見たい(やはり想像力を狭める行為であることでありますし、映画化にあたって一体何を重要視したのか、監督の意図を知るのが面白い、と思うからです)私としては、少しその当時の知識を知りたいと思い、関連ありそうな本を少し読んでみることにしました。
その中でもかなりコンパクトで且つ無難に纏められつつ、しかもビジュアルまで充実していたのがこの本です。さすがNHK絡みはお金がかかってます。
ファランクスと言われるアレキサンダー大王の父、フィリッポスⅡ世の考案した長槍を持った集団歩兵部隊を再現させたり、ビジュアルが大変充実しています。このファランクスの再現部分は非常に面白かったです。実際に5.5メートルもあった長槍をどのようにして使い、防御をどう扱ったのかも分かったのはこの後読んだ「アレクサンドロス東征記」アッリアノス著でも視覚イメージが湧きやすくなって良かったです。もっともそれを言えばさすが「ヒストリエ」の岩明さんなんですが。
この本でもマケドニア王国の成り立ちとアレクサンドロスの父であるフィリッポスⅡ世の偉大さを存分に理解出来ます。アレクサンドロスの凄さは今後の本でも際立つのですが、何よりフィリッポスⅡ世の改革者としての、発案者としての、そして実行者としての大きさをより深く理解させられました。「ヒストリエ」でのアレクサンドロスの葛藤の根本にある偉大な父親の影響力の跡を実感します。またそれに張り合おうとすることがエスカレートしていった結果の布石にもなりえると感じました。
そして非常に重要なフィリッポスⅡ世暗殺について、エウリュディケやアッタロスの関係、それに先立つフィリッポスⅡ世とアレクサンドロスとその母オリュンピアスとの確執についても理解しやすかったです。だからこその王維継承の際の結末の悲劇性も、どのように扱うのかが気になってきました。
ただ、できればアレクサンドロスの関わった戦の中では恐らくカイロネイア、グラニコス、イッソス、ガウガメラの戦いほどは重要視されないけれども、都市攻略という意味でのハルカリナッソスと地形を変えたというテュロスについてもう少し詳しく載せて欲しかったです。
何より他のアレクサンドロス関連の本と比しても間違いなく当時のペルシャをどう捉えるのか?という意味で多角的であり、その点は非常に素晴らしかったです。当時のペルシャ帝国がいかに進んだ国であり、ペルセポリスの都市の再現、その統治システムの特異性はこの本が1番良かったです。
ビジュアルを伴ったアレクサンドロス関連の本に興味のある方に、ファランクスの再現を見てみたい方にオススメ致します。