ニック・マッカーティ著 本村 凌ニ監修 原書房
アレクサンドロス関連の本のひとつです。
この本は絵画をとてもふんだんに差し込まれた本で、その当時のものではなく、いかにアレクサンドロス後のヨーロッパに大きな影響を与えたかがその絵画のテーマとしてこんなにも多くの作品が存在することを分からせてくれます。また個人であるアレクサンドロスに、ヨーロッパのというか当時のギリシャ世界からどう見えたのか?というところから肉薄していて、その点が他のアレクサンドロス関連本と変わっていました。ですからフィリッポスⅡ世当時の敵でありアテナイの政治家であるデモステネスやアリストテレスから見たマケドニアがいかに野蛮人(バルバロイ)としての新興国家として捉えられていたか?を良く理解できます。
できるだけアレクサンドロスに焦点を絞っているために、やはりその周囲の人物の描写なり群像劇としてのヘタイロイ(王直属の騎兵団、そして学友でもあった幹部たち)としての面白さはあまり触れられていません。出てきてもペルディッカスとのやりとりでアレクサンドロスの人柄が滲み出ている「希望を分かち合う」話しと、やはりへファイスティオンとの関係くらいです。
ただ、戦術面での、いかに兵站を重要視していたか?や戦略的思考があったかが分かり易く、神殿での神託を受けるためと受け取られがちのエジプト遠征の順番の重要性はこの本で1番よく理解出来ました。そのうえ、アレクサンドロスの寛容さと冷酷さというキャラクターの2面性の根本を、プルタコスというローマ時代のギリシャ人の視点をより多く見せて想像を掻き立ててくれます。この2面性こそアレクサンドロスという人物の面白さでもあり、特に「ヒストリエ」では大胆な解釈が加えられており、この点を考えるうえでも面白い迫り方だと思いました。
そしてフィロタスとパルメニオン親子との確執についての解釈も少し他の本と違っていたのはやはりプルタコスのものなのかもしれません。またアリストテレスの甥であるカリステネスという著述家の存在もある程度扱われていてよかったです。そしてなんといってもクレイトスとのいきさつはかなりの比重を置かれていて、ここは分かりやすかったです。クレイトスの人柄ももう少し理解したかったのですが。あくまでアレクサンドロスありきの話しなので。
そして征服した土地での統治に関してのアレクサンドロスの独特のやり方のメリット(その自治を認める)とデメリット(部下の自尊心を傷つける)も理解しやすかったです。
アレクサンドロスのヨーロッパにおけるその影響力の大きさを実感できる絵画に興味のある方にオススメいたします。