井の頭歯科

「隠し砦の三悪人」を見ました

2010年12月8日 (水) 09:15

黒澤 明監督          東宝

有名な作品ですが、これまた多少のネタバレを含んでおります、未見の方はご注意くださいませ。

戦国時代の日本、山名家と戦って破れた秋月家の戦場から命からがら抜け出した百姓の2人、太平と又七がとある金塊を見つけ、そこへある男が誘いを持ちかけます。そこには隠し砦の存在と、もっと大きな秘密があったのですが・・・というのが冒頭のシーンです。

とにかく、この2人の百姓のかけあいが絶妙です!ストーリィも見事に練り上げられているのですが、このかけあいの妙はまさに脚本で読んでも分からないまさに演技の素晴らしさです。たしかに、よく言われますスターウォーズのR2-D2とC3POの存在も思い出させますし、何よりバディ系の映画の基本的スタイルはここから始まったのか?と感慨深いものがありました(もしかするともっと以前にも遡れるのかもしれませんが)。こんなに会話の妙を味わえるなんて、まさに映画的な構図もですし、見せ方もそうですが、とにかくびっくりしました。

その上姫の性格がまた上手いです。扱いにくい性格であり、しかし世間知らずであるがためのものである上での「おし」を演じる部分は非常にハマッていたと思います。祭りを思い出し謡うシーンはなかなかの演技であったと思います、それまでのちょっと周りの役者さんの演技と比べての多少の違和感を補って余りあると感じました。あの祭りを充分に楽しみ、かつその経験を死す前に「これで良かった」と言い切れるシーンに繋げるストーリィの練り上げ方も素晴らしい。ある意味現代では手垢のついた手法であると感じても良いはずなのに、オリジナルか、あるいはその場のシーンの緊張感なのか、作り手の配慮の積み重ねであるのか、判断はできませんでしたが、とにかく強く納得させられました。そういうストレートなものをストレートなままで心を動かすのはとても難しいものであるところを突く黒澤作品の芯の太さと強度だと思います。

そして、やはり主役である真壁六郎太を演じる三船さん、凄いです。身分を隠し、その上護衛を行い、しかも必要とあらば実力を出すところの、何か隠し持った心を持つ男の覚悟ある目つきは、演技とは思えない日頃の生活の中から立ち上がらせるかのような匂いを放っていて、その当時は既に無かった武士という存在を充分映像から感じさせました、本当に素晴らしかったです。中でもアクションシーン、基本的にアクションシーンに心踊らされることがほぼ皆無ですが、騎馬でのアクションは迫力が凄かったです。もの凄く難しく、危険なシーンだったと思います。個人的には、何度か乗馬経験があるのですが(父に連れられもろにカウボーイの格好をさせられてました・・・)、とても難しいと思いますし、だからこそ凄いと感じますし、カメラの動きも素晴らしい。

三船さんの素晴らしさを理解出来ても、その上でストーリィ的にやはり今まで見た黒澤作品と同じように、その視点は庶民である「百姓」に固定されている、と思いました。それがまた、非常に観客の心を掴む上、その見せ方も勧善懲悪なものでなく、移ろいやすいものであることを見せた上、覚悟を決めた後の「百姓」の強さを見せるのが良かったです。

黒澤作品をまだ未見の方に、オススメ致します。

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