ミランダ・ジュライ著 岸本 佐和子訳 新潮クレストブック
Twitterやブログでおなじみの伊藤さん(空中キャンプhttp://d.hatena.ne.jp/zoot32/)が去年の秋のラジオ番組でオススメしていたのを聞いて読んでみました。久し振りの海外文学で、短編、結構期待して読みました。しかもTwitter文学賞(書評家、豊崎由美さんの呼びかけで始った新しい文学賞、1人1票しか投票できないのが悩ましくも面白い!)も獲りました。そういえばクレスト文庫を読むの、久し振りです。
映画監督もするミランダ・ジュライさんの初短編集です。
非常に不思議な感覚の持ち主で、どこか抜けている女性を主人公にした1人称で語られるものが多く、そのマヌケが「現実にはアリエナイ」まで行くことはなく、しかし確実に「こんな奴がいたらひく」というレベルではあり、その辺でこの物語の密度というかリアルがふっと地面を離れるかのような瞬間があります。こういった作品はどちらかと言えば男を主人公にしたものは見たことがありますが、女子にすることで『不思議ちゃん』や『イタい女子』の存在をヒロインではなくそこから見える景色、にすることを可能にしています。ただし、かなり読み手を選ぶ感じも致しました。楽しもう、と思えばかなり楽しめますが、完成されているとは言い難く、しかも未完成さが持つ勢いもそれほど強くは感じませんでした。
肉食=男性的、草食=女性的、という(あくまで例えであり分かりやすいので意図してこういう図式を使いますけれど、つまりそういう前提や刷り込みがあることでそれが『ずれて』前提にならなくなってきているからこそ)という図式が崩れ行く過程に 『今』 があるなら(いつだってずっと『今』だという考え方も含めて)男性の草食化があり、女性の肉食化が進む中、こういったキャラクターが日の目を見てもおかしくないという意味で、分かります。
個人的に気に入った作品はどこかそのズレ方に、その妄想に、レイモンド・カーヴァーっぽさを匂わせる「共同パティオ」、放り投げ方とリアリティが結構なレベルの「水泳チーム」、絲山 秋子風の「マジェスティ」、そして1番オリジナリティを感じた「何も必要としない何か」です。
そういえば私有名な岸本さんの翻訳を読んだのも初めてかもしれません。
ミランダ・ジュライを形容する言葉としては『イタイ』だと思います。だからこそ、受け手を選ぶと思います、可笑みや、可愛げを感じられるかどうか、非常に微妙なラインに立っている(立ち続けるのならスゴイと思うけど1作ではまだ分からないですが)作家さんだと思います。
新しい短編、という形容詞に興味がある方にオススメ致します。