西村 賢太著 角川文庫
書評家豊崎さんがオススメの私小説家で、何しろ芥川賞を取った(でもよく考えると芥川賞受賞作そんなに読んでないし、私は選考委員の人選には野次馬的興味があるものの受賞作にはあまり興味ないです)作家さんなのですが、豊崎さんのオススメだけでは食指が動かなかったのですが、芥川賞受賞スピーチ(動画で見ました)が凄かったので読んでみました。
作者西村さんを思わせる語り手私の1人称で語られるどうしようもないある男の生活の一端を垣間見せる2作と、貫多(かんた)というこれまた作者を思わせる主人公を3人称で語る2作の4つの短編集です。タイトルもすごいネーミングで普通タイトルには使わない単語を使っていますが、見事に中身を表しています。
ただ、このキャラクターの無頼漢だけでの勝負ではなく、現実を軸とした不条理に揉まれる中卒の私なり貫多なりが味わう負の要素渦巻く感情の発露の中に、どこかリアリティを感じさせます。同じ境遇なら私も、と思わせる敷居の低さのようなものをリアルに「ハイ、どうぞ」と掌に乗せられるかのようなリアリティがあります。そして中毒性のようなものさえ漂っています、この男がどうなってしまうのか?という興味を沸かせるのです。
そして文章の中に出てくる「賽」だの「畢竟」だの、そういった単語が効果的に出てくるのでリズムがあり、直情的性格の私や貫多のなり行きにアクセントを持たせていると思います。しかし、この作品の作者が芥川賞取るなんて、多分ほとんどの人が予想してなかったんじゃないでしょうか?いや、凄くびっくりです。豊崎さんもかなりびっくりしてましたしね。この傾向で取るなら、もっと前に舞城王太郎さんあたりが取っても良かったんじゃないか?と思います。
働く、ということに、そして現実から逃れたことがある大人の方にオススメ致します。