井の頭歯科

「日々のあれこれ 目白雑録4」を読みました

2011年7月9日 (土) 08:59

金井 美恵子著     朝日新聞出版

大好きな作家さん、金井さんのエッセイ集、その第4弾です。3冊目までと書籍の大きさや装丁が変わっていてちょっとびっくりしました。もちろんこの装丁もお姉さんのもので、本文に差し込まれている絵も素敵です。2009年4月から2011年3月までの雑誌「一冊の本」に連載されていたものと、いくつかのエッセイも含まれています、得した気分です。

いつもながら言葉の扱いの正確さと上手さが、そして物事に対する考え方の鋭さが、真摯で良いと常々思ってます。金井さんのエッセイの帯にはいつも辛辣、とか辛口エッセイとか、意地悪な、という言葉で形容されているのですが、個人的にはただ単にストレートなだけではないか?と思います。まっとうな感覚の持ち主なのではないか?と感じるだけです。

サザエさんのとある一コマから堀口大學、矢作俊彦著「悲劇週間」を経て文芸時評や文学を取り巻く世界の鈍さについて語られ(この繋ぎが最高!)たり、現代アートの話しからイスラエル、そして村上春樹のスピーチ「壁と卵」をめぐる内田樹の慌てっぷりと結局のところどこか白けるスピーチを扱う周辺について、ジャーナリスト(金井さん風にするならジャーナリストの上に点をいちいち打ちたい)鳥越俊太郎(を評して「どこの地方とも知れない抜けないナマリが誠実そう、というキャラ」という文章を差し込む!上手い!)のあざとさを指摘、などなど、まっとうな意見で心地よいです。言葉を正確に操ることの重要性に襟を正したくなりますし、整合性というここ日本では忘れ去られ易いものの重要性を改めて認識させられます。

文学と映画について、あるいはその周辺のことについて取り上げられることが多くて面白かったです。特に大岡昇平氏と藤枝静男氏の目にまつわる話しには考えさせられる部分が多かったですし、非常に面白く、また、この話しを春日武彦先生はどう思うのか?が気になったりしました。

のりピーの覚醒剤事件についての報道からヒロポン(はギリシャ語の「楽しい+仕事」をかけた造語です)を推奨していた時代を含んだ考察は至極ごもっともですし、その報道するアナウンサーに対しての形容がもう膝を打つもので素晴らしかったです。私であればただ単に「下品」という言葉を使ってしまうであろう部分に「人品の下卑た」という表現を選ぶセンスが面白かったです。

そして、いろいろなモノが繋がる楽しさ、とも言うべきものがあって、金井さんが矢作俊彦氏や吉行淳之介氏(の作品や人柄)に対しての言及もかなりいろいろな意味で面白かったです、矢作さんの日記の話しは笑えます。いや、本当に凄い日記ですし、編集者の酷さ(アウシュビッツはダメだけど、グアンタナモとダッハウはOKなのが良く分からなくて笑えます)と、それを文章にするテクニックが素晴らしく、尚且つ金井さんの指摘も笑えて最高でした。

最後の方の『「W杯日本惜敗」でも「日本中が一体感」』は笑えます。一体感はそんなに気持ちいいもんなんでしょうかね?正直フットボールがそんなに好きなわけでもなく、ただのお祭り騒ぎがしたいだけでフットボールじゃなくてもいいくせに、「我こそはフットボールに一家言あり!」な人が多くてその一体感が気持ち悪いです。私だってフットボールに詳しいわけではありませんが、少なくとも、代表の試合よりはUEFAチャンピオンズリーグの方が面白いですし、時間が短く感じます。また、何をしようとしているのか?がよりわかり易いですし。それでもワールドカップを見るなら、やはり面白い試合が見たいので、国籍で見るゲームを決めることはないわけです。つまりフットボールという競技に興味があるのか?それとも騒ぎたいのか?ということです、多分オリンピックの金メダルに興味があるのか?というのと似た問題ですし、優勝なり金メダルなりを獲ることは凄いことですけれど、その人と国籍が一緒なだけで自分の能力や技術とは何の関係も無いはずなんですが(もしくは国籍が違っても称賛に値すますよね)、これだけ盛り上がれることに違和感を感じる、ということです。そんな感想を持つ私には非常に頷かされる、メディアの舞い上がりの酷さや識者と呼ばれる方々の日本の閉塞感を吹き飛ばした、とかいう意味が良く分からない言説を軽くあしらってくれます。私はこういう『一体感』が基本的に気持ち悪く感じます。

金井 美恵子さんの文章が好きな方にオススメ致します。人は(もちろん私を含めて)結局読みたい本を読みますけれど、いつもながら少しでも広げていきたいと考えています。

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