井の頭歯科

「ミスティック・リバー」を見ました

2011年9月23日 (金) 09:45

クリント・イーストウッド監督         ワーナー・ブラザーズ

患者さんにオススメしていただいた(以前「瞳の奥の秘密」をオススメいただいた方です)映画です。クリント・イーストウッド監督作品は結構見ているとは思いますけれど、この作品は見逃してました。個人的好みの問題ですが、イーストウッド監督作品の評価が高い程がっかりすることが多く、逆に全然知られていない小品とされる作品は結構好きな作品が多いです。恐らく、演技演出やカメラや音楽などその他の問題ではなく、脚本が好きになれないと評価が低い傾向が強いのだと思ってます。イーストウッド本人が出てくるとどれも同じキャラクターに見えるんですよね、マッチョなハリー・キャラハン的な。そんな私が好きなイーストウッド監督作品は「センチメンタル・アドベンチャー」です。イーストウッド監督も個人的に好きな映画として挙げていますが、全然評判良くないですけれど、すごく良いロードムービーだと思います。

で、今回は監督と音楽だけなんですが、結論から言うと私は素晴らしい作品だと思いました。脚本も、撮り方、演出、そして何より役者さんがそれぞれ素晴らしい演技だったと思います。

ジミーとショーンとデイブは仲の良いボストン地区で生まれ育った3人組です。カリスマ性あるジミー、引っ張られるショーン、従順なデイブが乾きかけのコンクリートに名前を刻んでいるところを警官に咎められ、デイブだけが連れ去られます。しかし、その警官は偽物でデイブは4日間ものあいだ監禁され、それでも自力で脱出します・・・
大人になったジミー(ショーン・ペン)はコンビニエントストアーの経営者で娘ケイティ(エミー・ロッサム)も年頃の19歳、ショーン(ケヴィン・ベーコン)は刑事になったが奥さんには逃げられていて吹っ切れず、デイブ(ティム・ロビンス)は良き家庭人ですが何処か暗い肩を落とした中年となっています。が、ケイティが行方不明になり、その捜査をショーンが担当、目撃者の中のはデイブがいて・・・というのが冒頭です。

好みの問題もありましょうけれど、ショーン・ペンに合わせて創ったキャラクターなのか?と思わせるほど自然に感じました、こちらの勝手なイメージですけれど、説得力あります。また、ケヴィン・ベーコン、やり過ぎない感じに好感持ちます。そしてデイブの役は難しかったと思いますがティム・ロビンスも好きな(もちろん『ショーシャンクの空に』も素晴らしいんですが、『さよならゲーム』とアルトマンの『ザ・プレイヤー』は忘れられない!)役者さんですし、無難な演技だったと思います。キャスティングがこれだけでも見事だと思うのですが、さらにさらに、細かいところまで印象的な配役です。ショーンの相棒刑事にローレンス・『マトリックス』・フィッシュバーンが対照的で良いですし、不安定なデイブの妻にマーシャ・ゲイ・『ミスト』・ハーデンも似合いすぎですし、ジミーの娘ケイティに愛くるしいエミー・『オペラ座の怪人』・ロッサムの最後の笑顔の演技は特筆すべきほど印象的でした。確かにティム・ロビンス以外は役者さんのイメージを損なわない無難なキャスティングとも言えるでしょうけれど、それでもこれだけ堅実的で配役からある程度キャラクターを察する事ができるのは素晴らしいと思いました。

ストーリィを追う上で、ある意味ミスリードを誘う部分もあるにはあるのですが、可能性として開けていますし、見せ方としてフェアであると思います。結末にはいろいろ異論を挟む方もいらっしゃいますでしょうし、映画にエンターテイメント性だけを求める方には向かない、映画的脚本ではありますけれど、納得出来る様々な解釈や受け手の自由度があって良い作品だと感じました。

ショーン・ペン、ケヴィン・ベーコン、ティム・ロビンスに興味がある方にオススメ致します。

アテンション・プリーズ!

ここからネタバレあります、未見の方はご遠慮下さいませ。

何故デイブだったのか?が気になってしまいますが、その意味はあまりないとも思えるんですね。ただ単に家が近所ではなかったから車に乗せやすかった、あるいは犯人の好みだった、という当たりに落ち着くと思います。そういう理不尽さを描く作品であると思うんです。そして些細なキッカケがめぐって重大な結果につながってしまう。デイブは最後の最後に、嘘をついてまで助かりたかったのは、どうしてもやり直したかったからではないかと私は想像しました。デイブの監禁後の時間はずっと薄いベールに覆われた、心から楽しめない時間であったのであろうと、吸血鬼や狼男の比喩として理解しました。ちょっとした、些細なことで何かが狂っていく、あなたと私は違うけれど、あなたにもその可能性がある、という怖さだと思うのです。それにしても車に乗せられたデイブに向かって振り返る人物の不穏さと、座席に手をかける際の右手の指輪にピントが合っている(十字架を模した指輪!)怖さはかなりのものでした。

ショーンの最後もかなり意味深です、わざわざジミーに向かって指で拳銃を形取って打つしぐさの上にウインク。どうとでも取れる印象を与えます。が、個人的な解釈ではショーンはジミーの影の部分を知っている、知っていて手を出さなかったわけです。そして非常に大人な態度ではありますが処世術でさえあるとも言えます。ジミーを捕まえることはないのでしょう、ジミーがミスをしない限り。そしてレイに(自分を売った男で、殺害後ずっと!)仕送りを続けるというジミーなりの『けじめ』を知った上でのことであるのを考えるとショーンが1番凡庸な男のように、そして1番リアルに見えます、傍観者でさえありえます。職務はこなすけれど、それ以上ではないわけです。

個人的に問題なのがジミーだと思うのです。カリスマ性があり、そして自らの手を汚すことも厭わないことは良く理解出来ますし、立派でさえあるのですが、しかし、あくまで自分のルールなのです。最善を尽くし、自ら引き受ける強さまでも持ち、しかもそれを肯定さえする妻までいる。自分に復讐する手段を持ち、意思もあり、簡単には決断を下さない分別もある。しかし、それでも誤ってしまうことがあり、それさえも織り込み済みであるように見えるんです。葛藤もあるけれど、それも了解済みであるかのような。未来の予測を完全に行うことが出来ない以上、仕方がないのかも知れませんが、もし、感情に炊きつけられ、その能力を持ち、逡巡はしたが確信に近いものがあった時に、実力を、暴力を行使する誘惑に勝つのは難しいのかもしれません。ジミーの正義の頑なさとその発露に、システマティックさが表す手際の良さが、余計に恐ろしく見えました。全ての登場人物の中で1番恐ろしかったのは、私にはジミーの妻でした。

デイブを連れ去る車を見送ることを2度繰り返したという結末の後(普通の映画ならここでエンディングなんでしょうけれど)、続く現実を見せるパレードの部分の余韻が、その後の河の流れとその場面でかかる音楽の素晴らしさが良かったです。

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