法月 綸太郎著 角川文庫
本格ミステリ大賞を取った作品、最近出た「キングを探せ」を読んで法月 綸太郎著法月 綸太郎シリーズの中で唯一(だと思いますが・・・)読んでいなかった長編を読みたくなったので。やはり名探偵という存在は面白くもきわどい存在ですね。その辺の機微を上手く操るのが法月さんの真骨頂だと思います、もちろんミステリのトリックの扱いもそうですが。
著名な彫刻家が病死し、その遺作である彫刻の首が切り落とされる事件が起ります。彫刻家の弟であり翻訳家であり、さらに法月 綸太郎の友人でも川島から捜査を依頼されたことから、その彫刻家の娘であり、しかも遺作のモデルでもある江知佳の身辺を気をつける法月ですが・・・というのが冒頭です。
まず、普通は事件が起り、探偵や警察を必要とする状況になるのですが、この作品ではそうではありません。その過程が面白く、また様々な伏線が貼られていて、そのどれもが非常に丁寧なため、伏線とわかり難い部分さえ多々見受けられました。が、実際にその伏線が回収されていくカタルシスはちょっと無いくらいのレベルの高さと多さであり、この本のボリュームにも頷けてしまいます。ですが、このボリュームや伏線の多さについて躊躇われる読者もいるのではないか?とは想像しました。
例えば少し前の島田 荘司著の御手洗 潔シリーズ(それにしても「占星術殺人事件」と「異邦の騎士」は本当に素晴らしい作品だと思います、ココで言う作品は「眩暈」や「アトポス」辺りの作品90年代辺りでしょうか?)で言えば、推理にも、また伏線にもならない部分で、過去の描写やストーリィを差し込んでくることでのボリュームが増えるのではない形での長さなので、その分面白いというか、周到と言えると思います。
そして、探偵という存在に必要な「事件」を起こしどう関わらせるか?という部分の繊細さが法月さんの真骨頂だと個人的には感じていますので、法月さんらしかったとも言える作品だと思います。
とてもロジカルであることに突き抜けた作品に興味のある方にオススメ致します。
しかし、個人的には、ロジカルな部分は良いのですが、いくらなんでも、という部分も多いと感じましたし、整い過ぎていて余計な感じがしてしまいました。細部に拘って伏線にすることでのカタルシスは十分理解できますけれど、やりすぎると興ざめしてしまいかねないと思うのです。推理小説の難しさは、まるで殺される為のキャラクターの存在をどう説得力持たせるか、だと思いますので、あまり伏線貼りすぎるのもいかがなものか?と個人的には感じました。