阿佐田 哲也著 角川文庫
ある患者さんからオススメいただいたので読んでみたのですが、凄い面白かったです!いや、私は麻雀はルールが少ししか分かりませんし、点数計算が出来ないですし、役も全部は分かりませんけれど、親しい友人となら(賭け事ではなく遊びでなら)出来る程度ですが、知らない事たくさんあるのに、凄く面白かったです!専門的な事知らないのに面白いって物凄い事だと思います。
敗戦直後の上野でチンチロリンというお椀の中にサイコロを3つ転がして出た目で賭け事をすることで生活している中に紛れ込んだ中卒の「私」は工員時代の知り合いでもあり、賭博を教えてくれた人物でもある上州虎という人物に導かれて生活費を稼ぐ為に鉄火場に入り込み、そこで出会った「ドサ健」なる人物、しいてはギャンブラーである『バイニン』という世界、玄人の世界にのめり込んでいくのですが・・・というのが冒頭です。
とにかくキャラクターが立っていて、しかもそのバラエティーが富んでいます。ドサ健の悪徳な様、上州虎のしみったれた様、女衒の達のクールな様、チン六のダメな意味での人の良さ、そして出目徳の貫禄。どのキャラクターもエッジが効いていています。
なにより説明や説得という人間の言葉を介したコミュニケーションを使わない、いわゆる『しきたり』のようなルールのようなものは存在しますが、それ以外(いや、『しきたり』であってもそこを凌駕することさえある)は何でもアリの中での金銭という生活の糧を賭けた、まさに生きる為の戦いを描いた作品です。しかも、そのしきたりを、直接言葉では語らずに、しかし読者にはこれでもか!というくらい常識を覆させるヒリヒリとした臨場感に溢れています。
最初は普通(とは言いがたいですが)な青年「私」が徐々にギャンブルという熱に侵されていく様に、敗戦後の日本という舞台の切迫感もあり、とんでもないピカレスクロマン小説に仕上がっています。また、知らない用語を知るという楽しみ(トリビアルな)の上に、どこか背徳感まで上乗せしてあるので、普通よりももっと強烈に面白く感じさせます。私は角川文庫版で読んだのですが、背表紙の文を、あの、吉行淳之介が、解説を、あの、畑正憲が書いている部分も、上手く言えませんが不思議な説得力があります。
ギャンブルというもしかすると人類最初の商売かもしれない、そして奥の深い世界に興味のある方、あるいは私のようにギャンブルには全く興味は無いものの、人間という存在が気になる方にオススメ致します。