フェルディナント・フォン・シーラッハ著 酒寄 進一訳 東京創元社
前作「犯罪」(の感想はこちらhttp://www.inokashira-dental.jp/blog/?m=20111227)があまりに衝撃的だったので、その続編である本書「罪悪」購入しました。全く同じ作りのドイツの弁護士から見た事件を非常にドライな文体で渇いた表現で見せる連作短編集です。
今回はその文章もさることながら、よりテーマやモチーフにも、鋭い部分が多くなってきていると感じました。がその辺の違い(もしかすると成長なのかもしれませんけれど)を受け手である読者がどう感じるかで評価が分かれるかもしれません。上手くなっているとは思うものの、私個人は残念ながら「こなれた」という印象や、処女作の衝撃度が大きすぎて、ややインパクトに欠けたと感じました。
私が好きな短編は、作者にとっての出発点となりし事件を扱いしかも『空気』の支配を見せる「ふるさと祭り」、科学の発達で起こった悲劇とは簡単に言えない「遺伝子」、偶然というか伝承というか事故というべきかいろいろなモノが入り混じった「イルミナティ」、悲劇としか言いようが無い本作品群の中で最も恐ろしい「子どもたち」、最も短くも鮮烈な印象を残したうえ奇妙な因果を考えさせられる「解剖学」、類い稀なることが起こり正義が負けることを描く「アタッシュケース」、トラブルが徐々にエスカレートする様「鍵」、短編映画になりそうな「清算」、個人的に最も好きな話しで読後感が深い「家族」、そしてオチである「秘密」です。
かなりのレベルの本だと思いますし、文体といい、リアリティといい、出来栄えは良いと思いますが、読者とは勝手なモノで、あの「犯罪」のシーラッハの新作、と言う期待からすると、失望を感じてしまうという部分あると思います。もちろん素晴らしい作品だと思いますが。もっと驚かせてくれ、と言ったのはディアギレフでしたが、そんな都合の良いことを考えてしまうくらい「犯罪」が凄かったです、私にとっては。
シーラッハの「犯罪」が面白かった方にオススメ致します。