岸本 佐和子編集 角川書店
凄いタイトルの本だなぁ、と思ったら編集が岸本さんで納得。最近読んでいる本の中に短編集が無いので購入して読みました。相変わらず凄くヘンテコな短編を集めているのですが、その中でもいろいろと自分の好みについて考えさせられるシロモノでした。
私が気になった作品は、とにかく何の説明もないのに納得せざる得ない「へベはジャリを殺す」、この短編の中でベストなツカミと想像させる恐怖と切り方の「あざ」、会話劇だけでココまで読ませるのが凄い「来訪者」、まさに居心地の悪さは短編集の中で最も高い「潜水夫」、アイディアがすさまじすぎるし最も変な「やあ!やってるかい!」、誰にでもある空白の恐怖を味わえる(しかし私は結末には不満)「ささやき」、名作『優雅で感傷的な日本野球』高橋 源一郎著を思い出さずにはいられない面白さの「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」です。
私が居心地の悪さ、と言いますか面白さを感じるには、ある程度現実味のある範囲の中で説得力を持たせ、その世界の中に埋没でき得るほどのリアリティ(誰の例えかは忘れてしまった【なんとなく村上春樹っぽいのですが、それが誰かかの引用だった感じもします】のですが「パン屋のリアリティはパンの中に存在するのであって、小麦粉ではない」ということだと思います)を整えた上で、落す(何か未知のものでも、アクシデントでも、この世界の住人となりし後であるならば何でも飲み込めるようになってしまっている)ものを好んでいるだなぁ、と理解してしまいました。その辺りの境界線が微妙でして、寓話や民話、神話レベルでのものであっても構わないのに、あえてそこからファンタジー色を加えるかのような、物語のトーンが変わりすぎるものを嫌う傾向があることを理解できました。
この短編集の中で言えば、現実のリアルな世界観から急にファンタジーへと切り替わる「チャメトラ」がそれにあたりますが、何となく自分の好みが狭量で厚かましい気分になりました。気がついてなるほどと納得するにはするものの、しかし狭い了見だなぁ、とも感じてしまうのです。好みなんてそんなもの、だと理解出来ていてもね。
そう考えるといわゆるマジックリアリズムもの、には弱いはずなのも理解出来てしまった、です。ガルシア=マルケス作品だとやはり「百年の孤独」よりずっと「エレンディラ」とか「コレラの時代の愛」とか最も好きな作品は「予告された殺人の記憶」だったりするのも納得。だんだんと「マジックリアリズムとはこういうモノ」という認識で世界に入れる気にはなっているのですが。
とにかく「あざ」と「来訪者」(私の世代だと「来訪者」とくれば「バオー来訪者」荒木 飛呂彦著なんですが)と「やあ!やってるかい!」は読んでおいて良かったです、どこから探してくるんでしょうね岸本さんは。
短編集が好きな方、中でもいろいろなものアソート感の強いものをお好みの方にオススメ致します。