長沢 節著 草思社文庫
友人にオススメしてもらったんですが、非常にシンパシー覚える書き手でした。長沢さん、全く知らなかった方ですが、とても有名なイラストレーターでデザイナー、そして映画評論も手がける方のエッセイですが、これが非常に面白かったです。主張は一見過激そのもので、独善的とも言えると思いますし、価値観の違いから受け付けない方には拒否反応を示されそうな内容なのですが、そこには筋の通った、長沢 節という人のスタイル、というものがあり、この方はあくまで自分にとってのスタイルの話しをしているのであって、決して他の意見を認めていないわけではないと感じさせる技術を持った書き手であり、先駆的な方であったのであろう、と想像します。
タイトルの「大人の女が美しい」というのは、大人の女は自由であり、自由ということは非常に孤独なことであり、その事を理解しているのであれば、考えられる様々な事柄に波及する考え方であることが分かり、過激に見えたとしても、ある種の正しさでもあり、納得させられました。ただ、「大人の女」としていますが、これは「大人の男」としても何の問題はない部分ですし、もっと言えば「大人の人間」としての話しであると感じました。
長沢さんは孤独であることは事実であり、またどんな立場やどんな人々に囲まれていようが結果的に人は孤独であり、当たり前であって、家族がいるから孤独でないわけではなく、ただ単に紛れているだけの話しであって「孤独である」という事実に向き合えていないのであるならば、それは子供の所作である、という部分は正鵠を得ていると感じます。誰の本で出てきた表現なのかは忘れてしまったのですが、「一緒に寝ていてもまぶたを閉じる時は一人」ということだと思います。家族であっても他の人、という事です。
この人の着眼点は面白さや独自性があると思います。そして、過激に見えるこの方の意見は、それに同意出来なかったとしても、それは構わないし、人それぞれが「考えた」結果であるならば問題ないのであるが、あなたは「考えた」ことがあるのか?刷り込みに従順なだけではないか?私は私の考える「美しさ」や「マナー」を大事にするし、その「考え」に至った経緯を話しているのであって押し付けているわけではない、というスタンスが感じられる文脈で、とても面白かったです。
結婚、という制度の問題と愛情の結果は違う、という意見も面白かったですし、個人のプライヴァシーには、たとえ恋人であったとしても立ち入るべきではない、というのも新鮮な意見でした。
恐らく、この長沢 節という人がいかに個人主義者であったか?ということと、そしてフランスに留学した際に非常に影響を受け、日本に馴染みにくい考え方になった、と言えると思います。海外では、という切り口は確かに鼻に付く部分もありますけれど、結局のところ長沢さんが考える美しいということは、スタイルがあるということは、こういうことである、という話しなのである程度は仕方ないとも思いました。
あと、残念ながら衛生面では少し間違った考えを持っていらっしゃるとは感じました。清潔であったり感染という面から考えて同じふきんを使用するのは正しくはないですね。
1981年出版というずっと以前に書かれたものであるのに、全く古びない事も凄いですし、それをオリジナリティやスタイルと呼ぶのではないか?と思いました。映画批評もやられているのですが、その部分もなかなか面白いですし、映画批評を本にもしているのですが、この本読んでみたいです。こういう大人がたくさんいたら面白いのに、と思わずにはいられません、という私もすでに大人になって21年も経っているのか、と思うと年齢だけではない何かがいつも足りない気になります。
考えてみる、ということが好きな方に、スタイルある人が気になる方にオススメ致します。