岡田 斗司夫著 ちくまプリマー新書
最近読んだ「オタクの息子に悩んでいます 朝日新聞『悩みのるつぼ』より」(の感想gはこちら)が面白かったので岡田さんの本を読んでみたくなったので手に取りました。凄いタイトルです。
この「世界征服」とは文字通りの「世界征服」を指しています、漫画やアニメや特撮に出てくる「悪の組織」の最終目的ですよね。もちろん上手く行った試しが無いんですが(なにしろ基本的にはヒーロー側を描く為の相手役ですから)、もし、仮に「世界征服」を現実的に企むとはどういうことか?を考える思考実験で、非常に事細かく描かれ、考えぬかれていて面白い読書でした、あっという間に読めます。ただ、恐らく、この本の書きたかった事は「世界征服」後の世界はどういうものであるのか?という事だと思います。最後の章で明らかになるある意味驚愕の世界です。
「世界征服」という言葉の持つイメージがあまりに先行してしまって、実際に実行に移すというのがどういう事なのか?をはっきりさせ、その目的を明確にすることで見えてくるタイプ分けも面白い試みだと思います。私は圧倒的に「魔王」タイプでした、いろいろ見透かされそうで恥ずかしいですが。バビル2世の敵役ヨミ様という悪役を知れたのはかなりのショックでした、ヨミ様凄く大変そうです(笑)このように漫画やアニメや特撮からの例えや引用があり、懐かしくも笑えます。1番はこのヨミ様ですが、有名なレインボーマンの敵役の組織の名前が酷いと言っていいモノでして、これがテレビ放送されていた、という事実にびっくりです。
と、このように、様々な手段や目的、そして付随する事柄の細かな意味を考えさせるので面白く笑いながら読めるのですが、この本の最後「世界征服」という事を考え抜いた後に、そして振り返った時に訪れる『世界征服』の本当の意味と、それこそ哲学的な問いかけにびっくりします。恐らく著者が言いたかったのはこの最後の章であり、そのために出来うる限り間口を広げようとした結果だと思います。
富の占有は可能か?を考える事は、アダム・スミスの「国富論」を経由して奴隷主義経済が消費者に変わることを理解することであり、支配を考えるという事は、パクス・ロマーナとパクス・アメリカーナの違いを指摘することであり、階級社会や階級文化を知ることであり、それが崩れた世界であることを知ることなんです。どういうことかは読んでいただくとして、非常に面白い思考実験だったと思います。最後にたどり着く「悪」という概念の捉え方もショッキングですが、面白かったです。
考える事が好きな方に、岡田さんを良く知らない人に、オススメ致します。この人ただのオタク文化の先駆者かと思いきや、かなり頭の切れる、そして面白がらせる、という見せ方も上手い方なんですね。