ミヒャエル・ハネケ監督 ロングライド
ミヒャエル・ハネケ監督作といえば私にとっては「ファニー・ゲーム」です。恐ろしいまでに観客の神経を逆撫でする監督なんですが、その悪意を映画という芸術で見せるところがこの映画監督の素晴らしいところです。
そんなハネケ監督作品、ということですが、アカデミー賞でノミネートされているという事で見ました。ジャン=ルイ・トランティニャンが出演している、というのと、狭いセットの中だけで撮られているというのも好みに感じられました。
音楽家である老夫婦は仲むつまじく暮らしているのですが、ある日妻であるアンヌ(エマニュエル・リヴァ)に病が襲い掛かってきて、入院して手術を受けなければいけなくなります。その手術の結果、身体に麻痺が残り、介護の生活が始まるのですが・・・というのが冒頭です。
いわゆる老々介護問題を扱っているんですが、今回はあのハネケ作品とは思えないように感じました、割合ストレートな表現だと思います。そして非常に丁寧で、しかも優しさ溢れる映像だと感じました。
何故、夫婦という家族を構成する最も小さな単位で孤立してしまったのか?を、淡々と示していきながらも、段々とエスカレートしてゆく様は、何かの拍子でこういうことが起こりえる、と思わせるに十分であり、だからこその恐怖感があります。そしてその2人だけの関係が見せる様々な喜怒哀楽を含んだ感情が沸き起こり、そして2人の間にほとばしり、消化したり積み重なってゆく様に、心を動かされます。
また、主役2人の演技がすさまじいです。名演というのはこういう事ではないか?と思います。とくにエマニュエル・リヴァさんの、病状の進行を表す何もかもに、演技ではないのではないか?とさえ感じさせました。全く素晴らしいです。
そして、あるクライマックスで訪れるまだ話せていなかった話しを紐解かれた後でのジャンの手が一瞬躊躇するという部分の、演出なのか演技なのか分かりませんが、そのリアルさに打ちのめされました。本当に凄い演技です。
ただ、テーマとして、私は超高齢化社会日本の現状はさらに進んでしまっているのではないか?と考えます。既に現実に起こっている問題ですから。より厳しいと言っても良いと思います。
夫婦である方々にオススメ致します。