安岡 章太郎著 新潮文庫
安岡さんはまだ読んだことが無かったですのでいろいろ驚きがありましたが、とても映像的な作品だと感じました。表題作だけの感想です。
父親から、母親が危篤との電報を受けた東京に住んでいる息子信太郎は高知に母親を看取りに行く事になります。高知に行くということは家族ともう1度対峙することを意味するのですが・・・というのが冒頭です。
高知に、父親の実家のある土地に向かう事で、両親と色々な意味での対峙をすることになるのを意識して向かう信太郎の目線で語られる家族の物語です。母親を看取る行為を軸にしながらも、それ以前の関係を断片的に挟んで進んでいく構成になっていますので、何故両親との間に葛藤が存在するのかを、読者は徐々に理解していきます。また、母親のいる病院の特殊性も最初に明かされているにも関わらず、何故こうなったのか?という部分は後に明かされるという展開ですので、とても映画的な印象を受けました。
淡々とした文章で、描写や感情も沸き立つようなものが1つも無いにも関わらず、昔を思い出し、目の前を流れる(非常に受動的な人物として信太郎は描かれています)非日常的な病院での、高知での、父親との生活の中で惹起させられる過去のイメージを通して、今の関係性を再確認していく構図は映像化を目指していたのか?と私には感じられました。
ちょっとした異世界のようにさえ感じさせる病院の世界へ入っていった信太郎の行きて帰りし物語とも読み取れますし、その上過去と対決し決着させることでの成長を物語ともとれるように思いました。
母親とのある会話の驚き、そして伏線を張りつつも、最後の最後で立ち上がってくる光景の美しさと恐ろしさが相まった複雑な感情を起こさせる風景が印象的な作品だと思いました。
淡々とした作品が好きな方にオススメ致します。