又吉 直樹著 ヨシモトブックス
私はつい最近まで全然知らなかった人です。新潮文庫のフェアでオススメ20冊を選書されていたのですが、この20冊のバランスと言いますか、かなり好みの本が似ている!という事で興味を持ちました。その後、お笑い芸人だという事を知りましたので、早速ネットで調べてみると(本当にネットって便利ですね)本当にお笑い芸人の方なんですね。とても不思議な感じの人です。本書の扉絵の後ろにも写真があるんですが、その写真がとても味のある写真です。
そんな方の本が出ていたので早速パラパラと立ち読みをすると(吉祥寺が舞台の短編わずか3ページの「吉祥寺の古い木造アパート」)、とても面白い!!という事で購入しました。
東京の土地と言いますか地名とそこで又吉さんが出会った出来事や妄想、そして生活や詩のような随筆をまとめたものです。お笑いの人が、とか外見がどうかとか、そういったモノは全然関係なく、非常に文章が上手いです。それも小手先の上手さではない、又吉さんの文章、というスタイルがある程度出来上がっています、そこにびっくりしました、素晴らしい。これだけ短い文章でまとめるのも、かなり難しいと思いますが、バッサリと終われる切の良さがまた、素晴らしい。そして個人的には改行のセンスを感じさせる文章が最も特徴的で心地よいと感じました。
大阪から単身18歳で東京に出てきたという又吉さんが好むのは「本」と「散歩」なんですが、読書量が半端じゃないです。正直非常に驚愕させられました。太宰を筆頭に文豪関連の話しも多いですし、お寺への散歩の話しも多いです。
私の好きな話は亀との会話「東郷神社」、地元である吉祥寺が出てくる『プリーズ』のカツラ剥きが恐ろしい「吉祥寺の古い木造アパート」、友人とのアホみたいな話し「一九九九年、立川駅北口の風景」、高円寺という場所がアパートに見える「高円寺の風景」、確かに言われたくない言葉がいろいろあるという「巣鴨とげぬき地蔵尊」、そういえばされた事私は無いけどキツイでしょうね職務質問という「渋谷道玄坂百貨店」、クーラーが壊れた事がある人には分かる「東京の何処かの室外機」、ルールある遊びが恐怖に変わる「秋の夜の仙川」、ええ長い事私も探しています「自意識の捨て場所」、ちょっと気になる自由律俳句の「阿佐ヶ谷の夜」、小噺になってる「夜明け前の北澤八幡宮」、魔界の入り口「六本木通りの交差点」、人見知りについての考察が非常に鋭い「麻布の地下にある空間」、妄想もここまで来ると文学になりそうな「六本木ヒルズ展望台からの風景」、ネガティブモデルがどんな人か気になるが暗いと誤解されていることをわざわざ訂正せずにそれを飲み込む辺りに何かを感じる「湾岸スタジオの片隅」、反語を同時に使うことで表現出来る言葉は割合誰でも用いれるのにこの人が使うと説得力が増す「昔のノート」です。
好きな作家さんで表明されていますが、やはり町田 康さんの影響は感じさせますけれど、それだけでないものを感じます。読んでいる最中に思い出したのは歌人でエッセイストの穂村 弘さんです。
短いエッセイが好きな方、町田 康さん、穂村 弘さんが好きな方にオススメ致します。