成瀬 巳喜男監督 東宝
成瀬監督の代表作と呼ばれることの多い作品なので、そしてあまりに「乱れる」が凄かったので見ました。
戦後の混乱の中、住む場所や食べるものに困るような生活の中で、戦時中にベトナムで知り合った富岡(森 雅之)を訪ねるゆき子(高峰 秀子)。二人は戦時中の混乱ではあったがある意味平和だった時代を懐かしく振り返るのですが、それぞれにとって温度差があり・・・というのが冒頭です。
映像として美しく、また主演の高峰 秀子さんと森 雅之さんの両名がかなり抑えた演技をされています。映像としても明るすぎない、それでいて暗すぎない不思議な感覚です。
原作は林 芙美子著「浮雲」なんですが、どの程度忠実であるのかは原作を読んでいないので不明です。ただ、登場人物を突き放しているようでいて、ヒロインであるゆき子に感情移入出来る女性にとってはかなり波乱万丈の、悲劇的ではありますがヒロイックな物語になっています。とても情緒的な物語なので、共感できる、あるいは感情移入出来るキャラクターがいる人にとっては非常に揺さぶられる物語ではあると思いますが、あまりにステレオタイプと言いますか、無論当時は普通の事であったのでしょうけれど(正直皮膚感覚として、理解できていないのでもしかすると違うのかも知れません)、今の私にはなかなか感情移入しにくいキャラクターばかりでした。
場面場面でそれぞれの関係性が目まぐるしく変わり、浮き沈みの幅の大きなストーリィで、その部分が関係性を固定させない面白さだと思います。
私には「乱れる」があまりに凄い作品だったので、「浮雲」の良さと言われる部分に期待しすぎたのかも知れませんが、この作品のゆき子のような境遇が巷に溢れていたのだとすると、そして当時の戦後の非常に厳しい環境を肌で感じ取っている人にはとても響いたのかも知れませんが、私には少しハードで運命という名の脚本に翻弄され過ぎる感じがしました。ちょっとだけ似ているのではないかと思ったのが「灼熱の魂」(の感想はこちら)です。なんといいますか、自分に酔ってしまっている感覚を覚えるのです。
最後の最後の文章を果たして映像にするべきであったのか、とも思ってしまいます。文章を映像にしないで、しかし受け手が感じ取れる映画であったら素晴らしいとも思うのですが。もしかすると大人の男女関係とはこういうものでもあるかも知れないとは思いつつ。
それでも、成瀬監督作品が好きな方、気になる方、女性の方、女性が気になる方に、オススメ致します。