半藤 一利 宮崎 駿 著 文春ジブリ文庫
映画「風立ちぬ」(の感想はこちら)を見る前の事前情報を基に「昭和」と「軍事」に詳しい半藤 一利さんが宮崎監督を訪ねて対談し、後半は半藤さんが「風立ちぬ」を鑑賞後、感想を述べ合う、という本です。
当然ですが、やはり「風立ちぬ」を見られた方にオススメします。というか、良い印象を持たれた方も、そしてちょっと分からなかったという方にもオススメの内容であると思いますし、理解が深まること間違いないです。興味がなかった方にはあまりオススメできませんが、漱石ファン、それも「草枕」ファンには楽しい記述が多いです。
「風立ちぬ」が面白かったけど分からなかった部分もある、という人にオススメ致します。
アテンション・プリーズ!
「風立ちぬ」を観た前提の感想になりますので、ある程度のネタバレを含みます!
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2人の共通の好きな夏目漱石を話しの枕に、昭和初期の思い出、そしてもうこれはミリタリーオタクと呼んで構わないであろう知識の数々を見せてくれます。この2人でなければこういう展開にはならなかったであろう話しばかりです。同好の士を得て話しが盛り上がった事がある人ならば分かってもらえると思いますが、説明をしないで話が分かる理解の速さ、打てば響くことの面白さを、文章で感じさせてくれます。
どちらかといえば私は軍艦野郎という半藤氏の告白も凄いですが、宮崎氏の飛行機野郎っぷりも相当なものがあります。カプローニ氏についての考察もとても、とても面白かったですし、この事実を知ったうえでもう1度映画を見てみたくなりました。そして専門は違えど、ミリタリー好きの知識の豊富さは半藤さんも宮崎さんも相当です。お互いに得意分野は違えども、とても精通された方々なんであろうと推察できますが、ほぼ初対面のようです、不思議です。
そしてもちろんなのかもしれませんが、とにかく『教養』があります、私くらいじゃ全然知らない人たちの横の繋がりまでを知っているうえでの会話が続いていきます。軍部にも、文学にも、そして市井の人々にも、開かれているモノを感じます。
半藤さんの非常に深い知識と俯瞰することのできる「昭和」と、実体験のある2人の「昭和」、そして宮崎さんの職人目線の「昭和」が、ダブって見えたり、多少の違いがより鮮明になったり、そしてだからこその立体感を得られます。
また戦術ではなく戦略を感じさせる半藤さんの言葉はなかなか重みがあります。どうしても昭和を考えますと、それは戦争を考える事に繋がっていきます(戦争関連でどうしても外せないのが、半藤さん編集の「日本のいちばん長い夏」の感想は
こちら、 そして山田風太郎著「同日同刻」の感想は
こちら、 そして最も面白かったのが鈴木 多聞著「「終戦」の政治史ー1943-1945」の感想は
こちら)。その辺のバランス感覚が、結局敗戦するわけなんですが、どうしてこんな負け方だったのか?という部分を感じるか?というところにシンパシーを感じました。だからこそのタイトルなんだと思います。
ここでいうタイトルにもなっている「腰ぬけ愛国論」という言葉の字面上の自虐性だけで嫌悪感が生まれる方にはなかなか手に取りがたい書籍かもしれませんが、正直私には納得してしまう部分大きかったです。
宮崎さんの堀越二郎や堀辰雄への(あくまでカッコつきの、)心情を読むココが出来るのも、映画を観た方であれば、知っておきたい情報だと思います。そこに他者目線で半藤さんがコメントを入れてくれるのも、知識の無い私のような読者にとっては手助けになりました。
夏目漱石 の「草枕」、難しそうですが読んでみたくなりました。宮崎さんも半藤さんも、ただのミリタリー好きだけでない、そこから派生する軍部や人事、そしてその方々たちのその後までを含んだ知識や教養の広さとそれだけではない自分の専門性とのギャップの大きさに改めて驚かされました。