百田 尚樹著 講談社文庫
ある患者さんに戴いたので読みました、凄いベストセラーですよね、映画化もされています。私は特に事前に噂を聞いていなかったのですが、読後はこの作品がベストセラーになるのも分かります。百田さん、初めて読む作家さんです。
合格確実と言われた司法試験に合格できなかったことから、ずるずると自堕落なアルバイトで生活している健太郎に、フリーライターの姉が本当の祖父について一緒に調べないか?と相談してきます。既に祖母は他界し、祖父は存命しているものの、実の祖父ではないというのです。全く知らなかった事実に衝撃を受けるのですが、姉と一緒に調べることにします。しかし、祖父の手掛かりはなく・・・というのが冒頭です。
物凄く読みやすい文章です。読書体験がそれほど無い人でも一気に読ませる文体だと思います。結構な厚さがあるんですが、あっという間です。私は読みやすい事は評価に値すると考えています。たくさんの人に読まれているというのは凄いことだと思います。
ストーリィはそれほど込み入ったものではなく、伏線の回収もカタストロフィ溢れるとは申せませんが、なるほど、という印象を受けました。ただ、ある程度本を読んでいる人からすれば、なんとなく何処かで見たような・・・という印象を持つ構成だと思います。
単純に知らなかった人ほど驚きが大きいですし、知るという喜びのインパクトは強いですよね。特攻という事、その成り立ち、太平洋戦争の経過、等々、初めて知る人にとってはかなり面白く読める読み物だと感じました。が、逆に言えば知っている人にとっては割合有名な話が多いのも事実です。また、個人的な意見ですが、歴史上の(それも年代を問わず、現代、近代等の現在に近い過去から記録の残りにくい古代含む)事実と史実にも多少の違いがあるでしょうし、結果が同じであっても、そこに至る心の動きは完全に不明です。ですので、歴史には解釈が可能だと思いますし、現象についての検証は出来ますけれど(にしても可能性の話しが多いですよね)、心象については想像の域を超えるものでは無いと思っています。だからこそ歴史モノの面白さを増幅させる『余白』が存在しうるんだと思うんですけれど。
少し気になったのは主人公宮部の過去が明かされる順番が都合よすぎる点と、あまりに何でも出来る存在である宮部さんが少々ヒロイック過ぎる点です。
良かったのは単なる軍部批判ではなく、またジャーナリズムの陥る驕りに対しての啓蒙はとても重要だと感じましたし、この趣旨に賛成します。ただ、やはり読み手の望むものが書かれる事についての視点も入れて欲しかったです、そういう新聞を無自覚で無批判に望んでいる人が(戦中も戦後もいつの時代でも)いることに問題がありますよね。ただ、あくまで個人の目線に重きを置いているのはとても良かったと思います。
戦争という状況の悲惨さと、その中でも生き抜くことの重要性を強く訴える作品、とてもエモーショナルな仕上がりになっています、情緒的な作品が好きな方にオススメ致します。
関連ですが、今のところ読んだ書籍の中で最も印象に残っているのが「『終戦』の政治史」 鈴木 多聞著(の感想はこちら)と、映画で印象に残っているのが「TOKKO 特攻」リサ・モリモト監督(の感想はこちら)です。本当にどうしようもなく悲しい話しです。あまりヒロイックになってしまうのには違和感を覚えますけれど、知っておくことは必要だと考えますし、もっと納得いくまで今後も調べていくと思います。