井の頭歯科

「日本人は民主主義を捨てたがっているのか?」を読みました

2014年4月22日 (火) 09:10

想田 和弘著     岩波ブックレット

映画監督の想田さんの著作です。恐らく想田さんの映画の手法はドキュメンタリー映画監督フレデリック・ワイズマンの手法から学んだのではないか?と思うのですが、いわゆる観察映画と呼ばれる、BGMなし、効果音なし、ナレーションなし、という単純ですが事実を浮き上がらせる事にかけてはとんでもなくシンプルこの上ない手法を用いているのですが(当然受け手のリテラシーや知識、考え判断するチカラが求められるわけですが)、その手法をほぼそのままに使用しているドキュメンタリー映像作家さんです。ですので、非常にソリッドな映像体験が得られます。しかもその題材が選挙制度だったり精神病であったりと、割合タブーに近い部分を攻めつつ、ユーモアを忘れない部分に個人的な面白さを感じます。

そんな映画監督の想田さんが感じる日本の政治の動きで感じたことを綴った文章です。私は世の中には様々な意見があると思いますし、想田さんの意見に全面的に賛成というわけではないのですが、民主主義というシステムの日本における機能低下への危惧については意見を同意するものです。

民主主義という政治形態は非常に手間暇のかかる、主権者である国民の民度によって精度がかなり左右されるシステムだと思ってます。ナチスドイツを例に挙げるまでもなく、独裁を生んだのが民主主義とも言えるわけです。優れた独裁者の治世と、民度の低い民主主義の世界では、圧倒的に独裁が優位性を保つと思います。が、権力移譲の難しさ、腐敗することへの抵抗、など難しい問題が多く、トータルで考えて民主主義以上のシステムは今のところ存在していないと思います。近未来SFの映画や本では繰り返されるモチーフです。

その民主主義を捨て去ろうとしているように、想田さんには見えている部分が、私も気になる部分です。想田さんが言う「熱狂なきファシズム」に、興味がありました、私にもよくわからないからです。

想田さんの感じる違和感、そして自民党の憲法草案についての異論は、至極ごもっともです。というか私もこの本で知りましたが(すいません、そうは言いつつも自民党HPの草案を見たわけではないのですが)、憲法は基本的に国家権力を縛るための法律であって主権者である国民を縛る法律ではないのは共通認識であると思っていたので、とてもびっくりしました。自主憲法の成立は、非常に重要な案件ですし、私個人も基本的には賛成です。ですから、賛成だと感じる人が必要な人数納得させることが政治家の仕事でしょうし、96条を改正するためには96条を満たした上で改正するのが正しいと思います。

そのうえでの自主憲法の策定には、それこそ膨大な時間をかけての吟味が必要だと思います。与野党を超え、専門家の意見も鑑みたうえ、もちろん日本国籍を持つすべての人(は、言い過ぎなのかもしれませんが、実はすべての人の総意が、私は必要だと思います)が関わって納得すべき案件だと思います。護憲派、という人々がいるのは承知していますが、当然護憲派の意見も反映させた上での自主憲法こそ、日本国憲法の改正だと思うのです。護憲派の人たちの、議論をしない、テーブルにつかない、という態度にはかなり違和感を覚えますし、だからといって改憲派の、改憲派の言う通りに改憲すればそれで良い、という態度にも違和感を感じます。

どうしてもう少し玉虫色の決着を呑み込めないんでしょうか?

これだけ多数の国民が暮らしているのですから、様々な立場の人がいるでしょうし、玉虫色の決着は当然だと思います。その代り、様々な立場の人が、それぞれの立場を背景に、相手を説得させなければいけませんし、相手の立場を想像し、ある程度敬う態度が求められると思います。もちろん出来る限り多数での議論が望ましいけれど、実際は無理ですし議会制民主主義ってそういう想いを議員に託すわけで、それこそ重要な手段である選挙、ひいては議員へのコミットメントが必要なはずなんですが、そこに出てくるのがこの本で書かれている「消費者資本主義」です。

「消費者民主主義」という概念は非常に恐ろしいです。

私はここ数年でいつも思うのですが、難しい事を簡単にするサービスを提供することで対価を受け取る、という行為(まあ広く言えば高度資本主義社会と言えるかも)がそもそも似つかわしくない部分へ範囲が広がっていく事に抵抗を覚えます。誰だって簡単に分かり易くしてほしいですが、簡単にする、ということは単純化し、本筋以外を捨て去ることになりやすいです。その捨て去る部分にも大切な事は当然存在するはずなんです。

簡単な物事だけしか受け入れない人は、簡単なもの以外を考えることを拒否しやすくなると思うのです。そして、判断を下すことを避けるようになるのではないか?とも思うのです。簡単にしない事と向き合う事、必要だと思うのですが。こちらから理解しようと歩み寄る姿勢が必要になってきていると思います。現代の高度に発達した社会においてはおそらく、受け手でいる事が最も楽で心地よいのかもしれませんが、感情的にならずにもう少し冷静な判断をしながら、感情の発露、情動的カタルシスをうる為ではない、長期的視点に立った、とても煩雑で面倒なやりとりを経た、戦略的な結果を飲み込めるメンタリティが必要なんではないかな?と思ったりしました。自分でもできてないんですけれど。

いろいろ考えさせられる本です、社会学に興味のある方にオススメ致します。

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