スパイク・ジョーンズ監督 アスミック・エース
ホアキン・フェニックスとルーニー・マーラが出演しているので観てきました。ずいぶん前の公開でしたのでいろいろ事前情報を聞いてしまっていたのですが、想像していた内容とはずいぶん違って面白かったです。
少し先の、スマートフォンではなく、直接イヤホンからの声や人間の言葉を理解するOS(オペレーション・システム)が普及し始めているくらいの未来。離婚をし、代筆業で生計をたてるセオドア(ホアキン・フェニックス)は心が動かされることの少ない生活を送っています。そんな中、新しく使用者本人に合わせた、しかも人工知能を持ったOSが発売され、ふとしたきっかけでセオドアもそのOSを手に入れるのですが・・・というのが冒頭です。
OSというコンピューターのソフトウェアが人工知能を持つ、という割合よくある設定の近未来SFなんですが、そこに恋愛という要素を持ち込み、かなり狭い範囲の中の出来事を描く物語です。
で、最初はもちろん恋愛という状況や心の動きを扱っているように見えるんですが、相手がコンピューターからなので当然ですが、実体が無い事で、どんどん抽象的な、というよりも関係性の築き方、コミュニケーションとは何か、といった非常に深く、しかも自分の中の認識を確かめさせ、揺さぶり、その認識に影の部分は本当に無いのか?と迫ってくるような作品になっています。恋愛映画のようですが、認識や関係性を問いかけるなんだか哲学的な映画だと思います。
主役を演じるホアキン・フェニックスの演技がとても素晴らしく、本当にこういう人がいそうな感じです。とても落ち込んでいる際の、薄いベールに自分だけが包まれた別世界にいるかのような存在感を出すのが上手いですし、だからこそ、喜びに満ち溢れている際の弾けた感じが、また普通と少し違って世間の目を気にしない感で表されていて良かったです。どことなく、今まで見たホアキン・フェニックスの演技というか演じるキャラクターは不穏で実のところどう考えているのかワカラナイようなタイプが多かったと思うのですが(
「ザ・マスター」 や
「誘う女」)、かなり毛色の違ったタイプの人物だと思うのですが、そのナイーブさも感じられて良かったです。
相手のサマンサの声を演じるのがスカーレット・ヨハンソンで、こちらも声だけであるのにいろいろ感じさせるのが素晴らしかったです、まあ、ちょっといろんな色を感じますけれど(今ではセクシーな女優さんとして有名ですよね)、その色を上手く使った演出だとも言えると思います。
ルーニー・マーラがまた美しいだけじゃない、かわいくて心地よい時の華やかさと、関係性が乱れた際のヒステリックを隠しているかのような眉間のしわの寄せ方を含んだ狂気をうっすら感じさせるのがまた良かったです。以前に観た「サイド・エフェクト」(の感想は
こちら )の時もそうでしたが、儚げなのに狂気を感じさせるのが素晴らしいと思いました。今回はどちらかと言えば普通の人を演じているわけですが。
代筆業というと、なんとなく私はガブリエル・ガルシア=マルケス著「コレラの時代の愛」の主人公フロレンティーノ・アリーサを思い出しました。
いろいろネタバレは厳禁な作品だと思います。が恋愛の話のようでいて、実はコミュニケーションの話しというのは、なんとなくそうなるだろうな、と思っていても、それ以上にヘヴィな物事を扱っていて考えさせられました。
そして、音楽が良かったです。素晴らしい。服装となによりあのピン留めがチャーミングな映画でした。