井の頭歯科

「昭和元禄 落語心中」を読みました

2015年5月8日 (金) 08:53

雲田 はるこ著    講談社KC

いつもながら友人にオススメしてもらいました。

落語の世界を描いた作品、漫画ではあまり見た事が無い世界です。作者の雲田さんも全然知らない方でしたが、展開の早さ、落語にまつわる様々な話しを知る楽しみがあります。

刑務所の慰問落語で聞いた名人、八代目八雲の「死神」という落語を聞いてから落語に取り憑かれ、出所してすぐ八雲に弟子入りした与太郎は、内弟子として八雲と生活を共にしていくのですが・・・というのが冒頭です。

いや、キャラクターが非常にエッジが効いていて良いです。弟子入りする主人公・与太郎の活発さ、師匠で名人八雲のストイックなまでの自律、その師匠八雲に惹かれながらも親の敵だと思っている八雲と同輩だった落語家助六の娘の小夏、既に亡くなっていますがまるで今でも小夏や八雲師匠をある種の呪縛をかける助六、先代の八雲との繋がりもありながら自由奔放でどこか助六に似ているみよ吉、主要登場人物の関係性の見せ方もとても上手いです。

そしてこの作品の中で(現在7巻以下続刊)どんどん絵が上手くなっているのが分かります。最初は八雲師匠だけでも手に余っていた『名人』を描くのに、助六との過去を語り始めた辺りから如実に絵に迫力が出てきました。

落語、とてもDeepな世界ですよね。話芸のひとつと思っていましたが、1度だけ新宿末廣亭に遊びに行ったことでなんとなく分かったんですが、寄席はおそらく舞台芸術のひとつだとも思います。そして古典があり、新作があり、その時代の空気によって少しずつ形を変えながら生き残ってきた文化です。この手の芸術で少しだけ理解があるバレエの世界にもとても似ているとも感じました。

古典の解釈の幅、ここに様々な要素が入り込んでいますし、新作という新たなジャンルを作り出すいわゆるモダンを作り上げる(しかし今のモダンが、何年後かの古典になっているのです)人もいます。それを『落語』という形で残していく話し、面白いです。

なので、一応キャラクターの成長譚も扱ってはいますが、展開が早い早い!成長譚はあくまで副産物で、もっと大きな物語のうねり、世代をまたぐ醍醐味を主眼に置いた作品だと、7巻までで感じました。もちろん関係性の妙もありますし、見方によってはいかようにも取れる物語です。特に菊比古と初太郎の間にはロマンスさえ感じさせるほどです。

落語をよく知らないけど興味のある方に、オススメ致します。

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