佐伯 清監督 東映
凄い、とは聞いていましたが、なかなか手に取る機会が無かったんですが、ふとしたことで手に取りました。
昭和21年、敗戦直後の浅草。露天商に品物を下す仕事をしている神津組はしきたりを重んじる組織ではありますが、新興勢力である新誠会の手口の荒っぽさに押され気味です。そんな中、神津組に訪ねてくる男(池部 良)があり・・・というのが冒頭です。
恐らくご覧になった男性の大多数の方が思う感想ですが、高倉健さんがカッコいいです。で、その説明をするのは野暮だと言われるのもよく分かる種類のカッコよさです。
蛇足だと分かっていますがそれでも文字にしてみたかったので、感想にします。
わずか91分の作品です、それが信じられないくらいの様々な要素を扱っています。ある種のエンターテイメント、それもちょっと特殊なジャンルになると思います。俳優として見た事があるのは高倉健さんだけで、その他の出演者で役者としての場面を知っている人が全然いないけど、顔は見た事ある、という人(梅宮辰夫さん、松方弘樹さん、三田佳子さん)が多いです。ですが、私の知っている笑っている顔ではなく、仮に笑っていたとしても(特に松方弘樹さん)心の底からの笑い顔を見せてくれます、薄っぺらくない演技だと感じました。
また、特に良かったのは高倉健さんの言葉使いです。非常に朴訥でありながら、何度か口にする「みなさん」という自分の言葉を聞いている大多数の人への一言目に「みなさん」という単語を選ぶ、というのが個人的に最もツボに来ましたし高倉健さんがいかにいろいろなものまで背負わされていたのか?を感じてしまったりしました。正統派、2枚目、渋い、かっこいい、男気、など本当に様々でありながらダーティーの要素は本当に少しも入りにくいんだな、と感じました。
それと、様式美、スタイルというものを随所に感じました。その為の任侠なのだと思います。まさに観念論、とても日本的な世界、おそらく(人によってもちろん違うとは思いますが)ダンディである事、影がある事、ニヒルである事、ハードボイルドである事、に近いようでいて似て非なる世界が任侠だと感じるのです。
任侠とか義理という言葉に興味のある方にオススメ致します。
アテンション・プリーズ!
ちょっとネタバレを含む感想です、既に鑑賞された方に読んでいただきたいです。
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とても内容の濃いストーリィで、跡目を継ぐ事、恋人との関係、組織の行く末、仕事に対する姿勢、新興勢力との摩擦、地元のあり方、義理、責任の取り方など、様々な要素を扱いつつ、この尺で見せるので非常に密度の濃い映画体験でした。
もちろん新興勢力の手口の荒さ、あくどさ、卑劣さは言うまでもありませんが、しかし新興勢力側の意見(バラックが必要であったり、騙してはいるが負担金という制度)が完全な悪、と言い切るのも難しいのが、面白いと感じました。
「軒下の仁義」こういうのがあるという事を知ってはいても、実際に見た事があったわけでは無いのに、この様式美の美しさを感じる、というのが自分にもびっくりでした。全然知らない俳優さんですが、池部 良さん、かっこいいですね。そしてみんな和服(?こういう服は着流し?と呼ぶんでしたっけ?)がとても似合っている、決して動き回るのに向いている服装ではないんですが、奇麗です。
そしてクライマッックス。ついに忍耐の限界に達した事での襲撃。カタルシスが訪れる訳ですが、この場面の美しさは特筆に値すると思いました。特に水道が壊れて水が滴るのが素晴らしく良かった!やはり孤独も絵になるでしょうが、バディ感がある方がより望ましい、という脚本が私にはグッときました。
いわゆるハードボイルドという世界の不条理に耐える、というだけでない、変な話しですが、この高倉健さんの任侠を見て思い出したのは、キャプテンハーロックの言う『男には負けると分かっていても戦わなければならない事がある』という一言に尽きると思いました。ニヒルとも違う、任侠という言葉が持つ何かが最も込めらた言葉ではないか?と。
岡本 喜八監督 東宝
なんとなく気になっていたタイトルですし、岡本 喜八監督作品ですし、しかも仲代 達也さんが主演、面白いに違いないと思ってみたのですが予想以上に面白かったです!
精神病院のような場所にドイツ語を喋るブルッケンマイヤーと名乗る男が現れ、所長である溝呂木(天本 英世)にとある仕事を持ちかけます。溝呂木は秘密結社を組織していて・・・というのが冒頭です。
いや~溝呂木役の天本英世さんの死神博士(あの、仮面ライダーの、です!)っぷりがすさまじいです。そうですか、元ネタはこの映画なのかも。ドイツ語(そういえば大学時代に第2外国語としてドイツ語習いましたが、全然覚えてない、けど、この発音はドイツ語だ!と感じさせますし、喋れるなんて凄いです)を喋るだけでなく、セリフ回し面白く、とある決闘方法を用いてくるなど、天本さんの映画と言えます。強引に言えば宮崎駿作品に出てくる悪役っぽいキャラクターです。
もちろんこの悪役に負けないキャラクターなのが主人公である桔梗を演じる仲代 達也さんです。この方の演技は黒沢作品等で見た事があって好きになりましたが、今作もオリジナリティ溢れる難しい役を見事に演じきってくれています。とぼけたマザコンで大学講師である桔梗の取る行動のズレ、それでいて理屈は合っていたり、偶然が偶然を呼ぶかのうようなミラクルを起こしつつ、常に水虫に困っていたりと、かなり特異なキャラクターなんですが、仲代さんが演じるととてもリアルに見えます。
脇のキャラクターも非常に濃い人間が多く、ウルトラ警備隊のイデ隊員役の方も出演されてますし、ヒロインの団令子さん(この方の撮られ方、その構図もまたとても絶妙でカメラも素晴らしい!)も魅力的ですし、主人公と行動を共にする子分になる3枚目キャラクターを演じる砂塚 秀夫さんのとぼけた感じもたまりません。
古びないと言いますか、現代に撮りました、と言われても納得してしまうくらいの映画内リアリティ、世界観があり、その納得させるチカラが大きく、本当に面白かったです。
とある組織が名乗る「大日本人口調整審議会」というネーミングもたまりません、少子化の今となっては真逆の組織が生まれそうですね。
で、大変面白く観たのですが、原作が都筑 道夫と出てすべてに納得。そうか、うん。都筑さんなら間違いないですし、都筑さんが原作の映画初めて見ました。ウィキ情報ですが、都筑さん原作、岡本さん監督作がもう一つあって、これはどうしても見たいと思ってます。
宮崎 駿ルパンが好きな方、都筑さんの小説が好きな方にオススメ致します。
吉野朔実作品はかなり独特だと思います。