あっという間に12月、早いです・・・いろいろ仕事も重なってて毎日たくさんいろいろな事があってゆっくり考えたり、気持ちの余裕が無いですが、仕方ないですね。
そんな時は読書とか映画を2時間見るとかしたいのですが、それもあまり出来ないのですが、1か月ほど前に読み終わった本の感想をまとめてみました。
「幻の赤い実」
石井 桃子著 岩波現代文庫
恥ずかしながら読んだ当時は翻訳家に目がいってなかったです、しかし誰でも1冊は石井さんの翻訳本を手に取って読んでいると思います(私が特に覚えているのは「星の王子様」、「ドリトル先生シリーズ(井伏鱒二訳となっていますが、ほぼ石井桃子さんの訳だそうです)」、そしてなにより有名なのが「熊のプーさん」)。その、翻訳家としてとても有名な石井さんの、最晩年の小説です。何しろ書き終えたのが80代ですから・・・
そんな石井さんの自伝的小説なんですが、とても面白いです!
昭和初期、女子大学を卒業した、どこかおっとりしている明子は、ふとした事から大学時代の先輩である、とても華やかな蕗子と出会い、徐々にお互いを理解していくのですが・・・というのが冒頭です。
いわゆる女性友情関係モノなんですが、時代的な背景はリアルでありながらも、実は非常に普遍的な女性同士の友情を描いた傑作だと感じました。
非常に聡明ではあっても表出という意味で感情的になれない、物事をゆっくりと考える明子と、エキセントリックで批評性があり、その上瞬発力が豊かで華やかな世界を生きているが、明子の前でだけ自然に振る舞える蕗子の対比が面白く、そして切実に胸に迫ります。
関係性の構築、移ろい、2人だけに分かる言語を介しての秘密の共有、そして結核という重い病が影を落としていく様は、自伝的と言われれば、より鮮明な記憶を基に書かれているのだと思うと、石井さんの強い意志を感じます。
私は男ですので想像するわけですが、当時の女性の立場や抑圧された、自由度の少ない、あるいは世間だけでなく家族間からの同調圧力を考えますと、非常に苦しいと思うと同時に、現代はいくらかでも良くなっていると感じずにはいられません。それでも、まだ様々な形で残っているでしょうし、同性間でも圧力はあるので残り続けるのかもしれませんが、現代の方がまだマシだとも感じました(ちょっと前に見た映画「この世界の片隅に」でも描かれていますね)。
あくまでネタバレを避けての感想ですから、曖昧な表現になりますが、私個人はある出来事が起こった後の3部には蛇足感を感じてしまいました。2部までの文章の、上手いというわけでは無いけれど瑞々しさが失われてしまい、且つどうしても、そこまで感情移入しているのが分かってしまうくだりが増えていくのも、正直残念に感じてしまいました。
ただ、だからこそ、余計に2部までの素晴らしさがより際立って感じます。
女性同志の友情ものが好きな方、関係性のこの人でしかない、という素晴らしさ、そしてそれが結婚という形によって終焉を迎えるというアイロニーについても考えてみたい方にオススメ致します。