メル・ギブソン監督 キノフィルムズ
宣伝かなりしてますね、言えばいわゆるハリウッドの言う「真実の物語 True Story」って奴です。でも事実はひとつしかないけど、真実はいっぱいあると思いますし、物語って基本的に脚色された、作られた話しですよね?とか、いろいろ言葉として考えてしまうんですが、まぁこれは映画ですし、もちろん脚色されていると思います。そして「真実の物語」と宣伝して、お客さんにたくさん足を運んでもらいたいと映画製作会社から依頼を受けた広報が考えて、戦争映画だけれども、感動巨編という切り口で宣伝した方が良いと判断した結果なんだな、と思います。こういうどうでも良い事考えたりするからメンドクサイ人間なんだと自分でも思いますけど、でも言葉を使うのであればどうしても考えてしまいますね。
第1次大戦に従軍して色々な意味で傷ついた父の基で育ったデズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)は敬虔なクリスチャンです。しかし、徐々に第2次世界大戦の戦火が広まり、自分でも軍に協力出来る事があるのではないか?と考えたデズモンドは陸軍に入隊するのですが、銃に触れることは出来ず・・・というのが冒頭です。
衛生兵として軍に帯同し、銃を持たない男の話しです。大変感動的な話しにもなっていますし、宣伝として正しいと思います。ですが、非常に解析度の高い戦争描写を行っていますし、2時間20分くらいある映画の半分は、とても惨い戦争シーンです。有名なプライベート・ライアンの冒頭シーンを、さらに進化させていると思います。もう本当に凄いです。しかもCGをほとんど使用していないそうです、正直全然分かりませんでした・・・おそらく、実際の戦場はもっとむごたらしいでしょうし、父の戦争体験からくるPTSD症状の描写も、かなりキツイ表現でした、これも実際はもっと厳しいのでしょうけれど・・・
デズモンド役のアンドリュー・ガーフィールドの演技は普通に感じられます、特別良かったとも思えないし、特別悪い印象もないです。スコセッシの「沈黙」の方が良かったように感じましたが、この人も上手いですよね。デビッド・フィンチャーの「ソーシャル・ネットワーク」の時から気になってましたが、好青年を演じるのはいいと思います。今回の中でも最も良かったと感じたのは、父親を演じたヒューゴ・ウィ―ヴィングと、デズモンドと対立する事になるスミティを演じたルーク・ブレイシーが良かったです。デズモンドとスミティの関係性は丁寧に描かれてたと思います。
前田高地(ハクソー・リッジ)の戦いを描いているのですが、日本人ももちろん出てきますし、リアルに感じられました、アメリカ側から見たら、こういう風に見えたんだろうな、という意味で、ですが。苛烈極める戦争の一場面、そして追い詰められている日本側の緊張、それでもなお抵抗を重ねる事のある種のリアルや狂気を感じる事が出来ました。
正直結構覚悟して観に行きましたし、メル・ギブソン監督作品はこれが初めてだったんですが、これは噂に聞いていたよりヘヴィに感じました・・・
戦争映画は極度の緊張下にあるからこそ、起こり得る様々な状況を通常とは違った感覚として説得力強く描けるという特徴があると思います。死を想起させるものに満ちています。しかし今回の映画はそのリアルさと言いますか、凄惨さがちょっと飛び抜けています、宣伝だけを見て映画館に足を運んだ人たちのショックを想像するに、結構な体験だと思います。
あ、ネズミが嫌いな人は絶対に観ない方が良いと思います、これだけは断言出来ます。
ネタバレなしでの感想なので、曖昧な表現になってしまいますが1点思うのは、もう少し早く、組織として何か出来たんではないか?と思うんです。最初のロープから降ろされた時から随分時間が経っていますし・・・そして非常に分かり易い表現でデズモンドの行為を待つのが、演出としてどうかな?と感じました。そしてやはり触れずにはいられないんですが、民間人は出てきません。恐らく、いや確実に、民間人も巻き込まれているのです・・・その部分への描写が、全くないのは、正直ご都合主義を感じました。ここまでリアルにこだわるのであれば、ちょっとで良いから民間人の描写を入れた方が良いと思います。
スティーブン・スピルバーグ監督「プライベート・ライアン」、リドリー・スコット監督「ブラックホーク・ダウン」が好きな方にオススメ致します。ヒューマニズムの映画なのか?私には結構微妙です。