ポール・バーフォーベン監督 ソニー・ピクチャーズ
ヴァーホーベン監督作品は以前にも感想を書いた事がありますけど(映画「ブラック・ブック」の感想は こちら )、とにかく変わった監督です。どう変わっているか?は観て頂くのが1番ですけど、予定調和を壊す、という意味で変わっていると思います。
とにかく衝撃作ですし、まあいつものヴァーホーベン作品ですので、非常にイジワルく、紋切り型のキャラクターから逸脱した行動を取ります。そのキャラクターなら、こうなるのでは?という観客のある種の期待や予想をことごとく裏切る展開が待ち受けてます。まぁいつものヴァーホーベン作品だと思えば間違いないです。
まあ今回はミシェルの特異な生い立ちから、分かる気もしますが…まあぶっ飛んでますよね…とにかく普通の感覚ではありません、が、だからこそ浮き彫りに出来る『何か』があるとも言えます。
また、その犯人の『必要があったから』というセリフにもかなりの狂気を感じますけれども、その関係者がぼそっと呟く『短い間でも引き受けてくれて〜』がさらなる狂気と、信仰の醜さと言いますか視野の狭さを表していて、恐ろしいです。
人は欲望を持つ生き物で、本能の赴くままに行動した結果を引き受けさせられるのですが(余談ですが、今読んでいる「中道態の世界」國分巧一朗著 ではそうではないかも知れない、というとても面白い考察をしていて、刺激的な本です!)、だからこそ理性やカントの言う悟性があり、何をして良いのか?同意が必要か?法律に反していないのか?等を考える生き物だと思いますが、この映画の主人公であるミシェルは、私には欲望に忠実過ぎる人間に見えました。
特に、とある人物に足を絡めに行ってるの部分は大変如実です・・・まぁ仕方のない人だと思います。しかし、生きている人間は誰しもがリビドーに支配された悲しい煩悩の犬、というだけなのかも知れません。でも犯罪になるなら普通は行動を起こせないと思いますけれど。
確かに、ミシェルの、恋人としての側面、母としての側面、娘としての側面、経営者としての側面、友人への側面、様々な人間の一面が含まれ、しかも主観や客観をも感じさせますが、まあ狂ってるように私からは見えました…
出てくる人間の誰もが人には言えない何かを抱えていて、その闇の深さに、またとても考えさせられます。誰もが心に後ろ暗いヤマシイ思いを抱いているわけではないと思うのですけど。
それでも、やはりミシェルの特異性は恐ろしさを、畏怖を覚えないわけには行きません。もう少しリビドーを抑えるのが人間だと感じています。
哀れな人間をこれでもか、と、特に性に対して思わせる映画でした。
いろいろありつつ、最後に展開するのは、母として、と、同性友人との関係だと言うのはまだ救いがあるのかも知れないです。それでも、散々批判していたある機関を、最後の最後に自分にとって都合が良くなると頼るのか!というのが私には飲み込みにくかったです。