井の頭歯科

「スリー・ビルボード」を観ました

2018年2月16日 (金) 11:21

マーティン・マクドナー監督         20世紀フォックス

とても不思議で面白い映画でした!まるでコーエン兄弟の「ファーゴ」みたいな映画です。

アメリカの田舎町で娘を殺害された母ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、町外れの寂れた3枚の看板に、警察署長に訴える過激な文言を書き入れ、警察署長(ウディ・ハレルソン)は困惑と憤慨、その部下であるジェイソン巡査長(サム・ロックウェル)は怒りを溜め込み…と言うのが冒頭です。

非常にリアルな映画でした、キャスティングも脚本も。そう言う意味で一面的な人物がいません。ちょっとした端役まで、不思議な魅力とアンバランスさがあります。

かなりネタバレを交えないと感想が書けないタイプの映画ですので、出来れば何も知らないで観に行くのが最高の鑑賞方法だと思います。 ので、コーエン兄弟の映画が好きな方に、ポール・トーマス・アンダーソン監督「インヒアレント・ヴァイス」が好きな方にオススメ致します。

アテンション・プリーズ!

以下、ネタバレを含んだ感想です、未見の方はご注意下さいませ。

レイシストを演じるサム・ロックウェルの普段からの内に秘めた憤慨、おそらく、母親には逆らえず、さらになんとなくとしか言えないのですが(彼女がいない事や、打ちのめされた瞬間の同僚である男性との、身体接触の濃密さ)から、ゲイのカミングアウト出来ない鬱屈(もしくは自覚の無い、自分で認められない)を感じました。

この、レイシストと言う最低な男のある瞬間の成長(個人的にはまだ信頼置けないですけど)、またミルドレッドの娘を救えなかった自分への怒り(だけでなく、別れた夫の若いガールフレンドへの執拗な嫉妬も)が犯人へ向かい、解決出来ない警察に向かう様が、ある破壊行動に変化した瞬間に、凄くリアリティを感じてしまいました。

だから、私は看板屋レッドの、信念を曲げない、あのオレンジジュースに、大げさだけど、マリウス神父から銀の燭台を譲り受けた直後に犯す、プティベルジェの一件を経たジャン・ヴァルジャン的な崇高さを感じました。

理解はするけど、ミルドレッドは行き過ぎだし、レイシストは最低です。ですが、彼らの、行き過ぎてしまう心情には理解出来ます。理不尽な現実に立ち向かう為に仕方なかったのかも。

だから、あのセンテンスの切り方が異常な元旦那の若い彼女の、怒りへの真実の一言に打たれ、大事にしろ、と言うシーンは熱くなります。もの凄い嫌い方だと思うし、それって結局元旦那に未練があるのかなぁ、と思われてしまう事への自覚の無さを感じますけど。

もちろん若い彼女のヘンテコな感じ、良かったですね、ああ言う彼女に惹かれる元旦那の気持ちも理解出来る。もちろん、自分に相手と釣り合う自信があるんだろうという違和感はありますけど。ちょっと頼り無い、とは思いますが。

そんなミルドレッドと、成長したジェイソンの、奇妙な連帯感、さらなる犯罪に手を染める事も辞さないように見えて、実は2人とも事態を収束させるタイミングを待っているように見えました。この、なかなか言い出せないけど、タイミングを待つ、と言うのが素晴らしかったと思います。信念を曲げる事の難しさ、振り上げた拳を下ろす事での心に溜まる澱の重さを考えると、何気ない、あの2人のドライブ中に起きて欲しいのは、ちょっとした笑いの瞬間です。きっとその瞬間があれば、2人は現実に帰ってこれると思うのです、殺人を犯さないで。

そんな希望を感じられるラストが、特に素晴らしかった。

でも私はまだあのレイシスト、ジェイソンを信頼してはいないんですがね…何となく、まだナルシスティックな面を感じたから、なんですが。

ウディ・ハレルソンの演技も良かったですし、翌月分の看板料を払っていくのが最高でした。

初めて観た監督さんでしたが、過去作も見てみたいです、かなり良かったです。

カテゴリー: 映画 感想 | 1 Comment »
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