東京、うっすらとスカイツリーが見えるくらいの下町。かなり朽ちかけた平屋の一軒家に、日雇い労働者の50代前半とおぼしき男(リリー・フランキー)、クリーニング屋で働く30代後半の女(安藤サクラ)、90歳になろうかという老人(樹木希林)、ショウタと呼ばれる10歳前後の男の子、身ぎれいでアキと呼ばれる20代前半の女(松岡茉優)が暮らしている。この一見家族に見える集団の日常を描いています。リリー・フランキー扮する男とショウタはスーパーでの万引きを常習的に行っています、働いてもいるけど、かなり生活が厳しい事がその家の散乱事情から透けて見えます。ある冬の夜に、4歳くらいの女の子がアパートの外で寒そうに佇んでいるのを、親切心から家に招きいれてしまい・・・というのが冒頭です。
とにかく参りました。まず役者、出演者その全ての人の演技が本当にスゴイです。とあるお店のお客さんを演じた池松壮亮さん、「紙の月」の演技も凄かったけど、ちょっとこの演技は凄すぎる、多分2~3分の出番であっても、恐ろしいくらいの爪痕です。と言いますか、同じくらい全員が凄い演技です。正直1番コミカル過ぎて少々浮いてるくらいに感じるのが樹木希林さんです、私の印象ですと。警察官を演じた高良健吾さんの、「シンゴジラ」で魅せた官僚映えもかなり光ってます、この方も数シーンだけですけど。また大変嫌な役回りを演じている池脇千鶴の、正義の側に自分がいる事を確信しているからこそ振りかざせる正論も凄まじいです、この方も数シーンしか出てこないんですけど印象に残りますし、今まで見た事がある役者さんのさらに自然で説得力ある演技、ベストアクトをされていらっしゃいます。緒形直人さん、久しぶりに見たけど、このよそよそしい感じ、良かったです。
基本的にネタバレなしの感想ですが、本当に良かったです、特に役者さんがスゴイ映画だと思います。脚本には少々強引な面も無くはないんですけれど。
出てくる役者全員が、物凄く良かったです。特に当たり前ですけれど疑似家族を演じた6人は誰もがベスト、と言いたいですけど、中でも1番好きなのはショウタを演じている子です。ちょっとあの眼差し、指クルクル、髪型、もう存在そのものが凄いです。是枝監督の子役指導は本当に凄いけど、この子を見つけてきたのが本当に素晴らしい。正直誰を主人公に置いても成立する映画ですけれど、この子の主役感が凄い。まっすぐさ、誠実さ、犯罪行為だと理解しつつある意識の変化、妹としての受け入れてからの純粋な庇う気持ちの芽生え、本当に子役に見えないです、というか演技じゃなく自然すぎるし眼差しがまっすぐ過ぎて本当に眩しい。その上あの走りも凄く良かったし、カメラが下から撮ってるのも凄くイイと思いました。スイミーの話しが泣けます。今後、彼が出演しているなら、そんな映画は観に行かねばならないではないか!
リリー・フランキーさん、もうこの人肩書きは役者で良くないですか?この、どうにも改善する気が無いダメなオジサンでも、心に何か秘めている感じを出せる人ってあんまりいないと思います。垂れたお尻とか、妙な痩せ方も最高です。ダメなんだけど許せる愛嬌と、心底ダメな部分とのリアリティが半端ないです。
安藤サクラさん、私には「愛のむき出し」が強烈すぎて、基本的にはあまり好きなタイプではない印象だったんですけれど、今回は凄い、認めざるを得ない。あの、子どもが泣くときの、声にだしちゃいけなくて泣くときの、目から涙と呼ばれる水がただ溢れて漏れてくる感じを、映画で、大人で見たの初めてだと思います。ただ溢れてくる、本当に悲しい時しか多分出来ない水の流れ方だと思います。映画内ではこの人が主軸であるのは間違いないです。結局、罪を償ってるのもこの人だけだと思います。
松岡茉優さん、私には「桐島部活止めるってよ」に出演された際の、凄く意地の悪い顔した女の子だなぁ、と思っていたのですが、これがもう全然違う人にしか見えないです、本当に役者さんって豹変するんですね。この人の役柄で最も重要なのは、私の勝手な思い込みかも知れないけど、容姿の美しさではなく、とんでもなく暗い瞳だと思います。ある種の絶望を経験しないと出せない瞳の暗さだと思うんです。ある場面で、かつての家の扉を開けるシーン、顔はほとんど写ってないんだけど、あの瞬間、BGMの細野さんの凄さも相まってなんでしょうけれど、私は映画館の座席に座りながら、風を感じ、埃の、生活の匂いを嗅ぎました、映画館でこんな体験ができるからこそ、みんな映画を見に行くんだろうと思います。
この松岡さん演じるアキととあるお店のお客さんの邂逅、悲しみしかない顔、何処にも行けない嗚咽しか出せない悲しみの裏側はどんな悲惨な状況なのか?全く不明ですが、おそらく相当な現実があるんだろうと思います。だからこそアキと何かしらのシンパシーがあったのであろうと思われるシーンはもの凄く良かったです。
そしてリン役の子役の眼差しの低さ、うつむき加減がずっと続く不安、演技に見えなかったです。映画封切とほぼ同時に起こったネグレクト殺人事件の子どもの「ゆるしてください」を想起せずにはいられない。絞りだすような声、抜け落ちた歯、ギャップがあるからこそ感じる笑った声から感じられる幸せ感がたまらなくリアルだった。大変特別でレアなケースと思いたくなる、しかし現実に2018年の日本で起こっている事件を想起させるのは、先見性として素晴らしいですし、批評性を獲得していると思います、少々きつくはありますが。
映画のラストショットのまなざし、その直前の歌、とても良かったと思います。
あ、この映画を見てから、ずっとゆでトウモロコシが食べたいです。
今のところの今年ベストな映画でした。