ジョン・カーニー監督 ギャガ
私は音楽に詳しいわけではありませんが、好きな音楽についてはいろいろ調べちゃうタイプです。また、好きな音楽の遍歴(今で言うとプレイリストでしょうし、昔はMy MIx Tapeですよね、懐かしい!)でも、その人のある種の何かが透けて見えるものです。多分これは本棚と同じだと思います。多分ファッションでもそうだと思うんですが、私はファッション文脈が全然分かりません。同じ監督としては「はじまりのうた」を見ていますが、それよりも個人的に大変スゴイ映画でした。
1985年のアイルランド、ダブリン。両親の不仲の中で経済的理由から荒れた男子校に転向させられる事になったコナー。その転校した学校の前でいつも立っているインパクトの強い彼女に対して、出まかせから自分のバンドのビデオに出演してくれないか?と誘います、バンドなんて組んでもいないのに・・・というのが冒頭です。
コナーには年上の兄、姉がいますが、特に兄の、いつも家にいて(まぁいわゆる引きこもりです)非常に問題を抱ているんですが、音楽に対するとても良いセンスがとても、個人的に、合うんです。で、その80’sの耳にしてきたミュージシャンのナンバー、MTV、懐かしすぎますし、その音楽を聴いてコナーたちが作るオリジナルナンバー、ファッションがもろに影響を受けていて、そこが大変微笑ましいんです。これはその時代を経験していないと分からない部分もあると思いますが、ある人には突き刺さる映画だと思います。
ネタバレにならない範囲での感想なんですが、とにかく80’sの音楽が好きな方なら間違いなくハマります。
あ、ちょっと思い入れが強すぎてネタバレになってしまっている部分もあるかも知れませんが、もう仕方ないです、以下気になる方は読まずに映画を見てください!!!
なんだろ?オリジナル曲なんですよ?でも、これ間違いなく聞いていた かも知れない 曲で、誰の影響を受けた曲のか?が何となく理解出来るのも、個人的に評価が高くなってしまう部分です。だって聞いたことないのに懐かしいくて新しくてってそんなに経験できないと思うんです。しかもアマチュアの演奏だから非常に拙い。だが、しかし、いやだからこそ、この拙さの正義感が溢れていてスゴイんです。例えとして間違っているかもしれないけど、子供を持って親になった人間が、その子どもの演奏を聞いたら、拙くても上手く聞こえるのと同じ現象だと思います。
主役のコナーくん、最初はぱっとしない、私と同じ側の人間に見えました、もちろん顔もなかなかいいんですけど、内省的な印象を受けたんです。ところが、です。そうか末っ子かよ、なんでも美味しく受け入れられていいね!ちゃっかりものだったのか!が理解出来てから、大変な変わりようを見せてくれます。お前そんなに出来る子だったの?的な末っ子パワーがさく裂しています。ファッションもメイクも、とにかくやる男なんです。そこに兄からの助言はあるとはいえ、結局やる男なんです、そこがイイ。末っ子は結局1番ませてるんですよね。
兄の言葉、音楽のセンス、正直言ってちょっと真ん中に寄り過ぎな感もあります、ちょっと好みがポップ過ぎないか?とは思いましたが(だって多分大学生より上、社会人初期の23歳くらいかな?もう少し趣向性があっても良い年齢のような・・・)、でも、弟の未来を信じてるんです。ダメでダサい時は、何がどうダメでダサいのかを言語化出来ている上に、対処法についてもアドバイスがあり(しかし気づくのは自分、覚悟を決めるのも自分!)、大変うらやましいです。中学生の頃はずっとお姉ちゃんが欲しかったです、センスのイイ姉。同級生で洋楽を1番早く取り入れてきたのも、映画に詳しかったヤツも、漫画の別世界を知っていた人も、全員センスのイイ姉がいる人でした。だからうらやましかったんですが、兄では無かった。でもこの兄なら最高ですよね。自分の置かれた環境を背負っている、その事について吐露するシーン、そして3人兄弟でダンスするシーン、ラストの何時行くのか?聞いてくるシーン、どれも最高に良かったです。
またバンドのプロデューサーになる最初の友人も、リアルで良かった。こういうマネジメントの出来る友人は確かに必要ですが、なかなかいません。彼がいなかったら確かにこのバンドは成立しなかった。最初に楽器の達人でウサギ好きの眼鏡くんを入れて楽器の確保から、あのキーボードを見つけるのも、その理由もとても良かったです。だからこそ、もう少し彼女とコナーの話しに寄せすぎないで、もう少しでもいいからバンドメンバーとの交流が欲しかった、ここが悔やまれます。
ウサギの彼のテクニックは悪くないし、コナーが作る歌詞がウサギくんの曲に乗る瞬間の、何かクリエイティブな瞬間に立ち会えている感のリアルさが大変上手い監督だと感じました。
パンチラインも非常に効いていて、とても良かったです。個人的にはHappySadが良かった。名台詞がそこかしこに散りばめられています。だからこそ、この映画のヒロインとの話しに集約する前に、バンドメンバーとの関係性を、とくにウサギくんとの関係性を、あと5分でいいから入れて欲しかったです。
出来事を歌詞に昇華し、音に乗って唄われていく様は大変エモーショナルになります。きっと、最初にウォークマンを体験した時に、まるで映画の中に入り込んだ印象を持った時に似ています、あの衝撃はなかなかに凄かったです。音楽が、自分の好きな音楽がかかっているだけで、気分は良くなるんだ、と知った時のアレです。
ラストも非常にエモーショナルでありつつ、しかしある種のリアルが感じられて素晴らしかったです。
まぁ彼女も非常に背伸びしていたんですけど、それでもサングラスを外す瞬間の輝き、それと、登場シーンの化粧の80’s感、さらにラストに近づくほど若返って見える演出も素晴らしかったです。彼女の背伸び感をとても上手く表現していると思います。
80’sの音楽が好きだった方には、特に強くオススメ致します。早くサウンドトラックを買わなければ。
あ、あと、これは確かめてないんですけど、スタッフロールの最後に彼らの曲が流れるんですけど、声が違ってて、これって当時の監督か誰かの実際のデモテープなんだと思うんです。そう考えると、この映画は自伝的な映画になりますし、あの時の空気感まで再現出来ている上に、当時の自分たちの音楽を最終的に届けられたっていうさらに甘酢な要素が乗っかってきて、本当にスゴイ!
曲が出来上がる瞬間からMTVになる流れが完璧!!!!