池波正太郎著 新潮社文庫
ある先輩の先生からオススメいただいて手に取りました。
そういえば、新潮社と言えば、新潮45が休刊になりましたね。私は今回の騒動については雑誌を買ってないんで、あくまで新潮45という雑誌についての私の感覚でしかないんですけれど、すっごくオジサン目線に沿った雑誌だったなぁと理解しています。たしか佐野眞一著の「東電OL殺人事件」も山崎永幸著の「共犯者」もそうなんですけれど、ノンフィクションの形を採った俺(作者)語り、な作品が多いという印象です。ノンフィクションの驚きの部分を誇張する傾向が強いのは昔からそうでしたし、そもそもそういう雑誌でしたし、そんなに驚く話しじゃない気がします。でもオジサンな目線が好きな方、ルポライター記事で記者が前面に出るのが好きな方には向いた雑誌だったと思います。とはいえ何某議員の擁護の文章が、流布されている文章なのだとすると、ちょっと釈明できないでしょうね・・・編集能力が無い雑誌は淘汰されるべき雑誌だと思いますけど。
閑話休題
オススメしてくれた先生方お2人はとても文学にも歴史にも造詣が深い方だったので、大変楽しく読めました。まず私は池波さんの著作は「男の作法」くらいしか読んだ事が無かったので、大変驚いたのですが、とてもヒロガリのある文章で、情景が頭に描きやすく、その上リズムがあって読みやすいです。このリーダビリティが高いという点はとても重要だと思います。その上でヒロガリがあって、さらに歴史的な事実に即している部分が、とても面白く感じました。どうやら雑誌の連載のようですし、時系列が一直線で季節の変わり目も、風情豊かに描かれています。
主人公は秋山小兵衛59歳。無外流の老人なれど剣の達人、その息子で道場を開いたばかりの大治郎は25歳。この2名を主人公に据えていて、老獪で達人ではありますけど、年齢の影を感じている父と、生き生きとしてはいるが一本調子でまだ青いがまっすぐな息子という対比が面白く、これは男性読者に大変受けたであろうと思います。老境に入っていく方に感情移入するも善し、若い息子に感情移入するも善しで、大変上手い設定であるし、時代がちょうど1770年辺りだとおもいますけど、老中田沼意次の時代です。この時は町人文化も華やかで、でも、田沼に対する評価は本当に両極端と言ってよいくらいに分かれていますけれど、私はどちらかと言えば、朱子学を避け、蘭学を庇護して、町人文化のよい部分を伸ばそうとし、だからこそ、平賀源内との親交もあったわけですし、さらに蝦夷地開発を行い(この中の最後の1人が、あの最上徳内ですよね!まぁ土山宗次郎他のメンバーは大変惨い最後になってしまうのですけれど・・・)、果ては赤蝦夷との交易を考えていたのではないか?という評価に与する方です。つまり改革派であったのではないか、と。
また何と言ってもこの時代にちょうど前野良沢、杉田玄白、中川淳庵がまさに『ターヘル・アナトミア』を翻訳しているのです!!辞書が無い中での翻訳作業というのは本当にスゴイ出来事だと思います。「解体新書」刊行に際しての様々に関わった人物たち(小田野直武とか司馬江漢とか桂川甫周とか大槻玄沢とかツンベリーとか、もし高山彦九郎や林子平も出てきたら嬉しいなぁ!)が果たしてこの剣客商売に出てくるのか?不明ですけれど、大変興味湧きます。
そんな時代のドラマですので、大変面白く、今後の田沼意次との関連(田沼の娘が準主役!)がどのように影響してくるのか?も気になります。
とりあえず、第1巻読み終わりました。