毎年、1年間という時間が短くなっている様に感じます、これが年を取る、老化という事か!という自覚とともにですけれど。でも、そこをポジティブに考えるのであれば、これは『老人力』(©赤瀬川源平)がついた、という事になるでしょう。1年が早く感じる能力を身につけた、という事ですね。
今年も、昨年に懲りずに私的映画ベスト10を決めたいと思います。
もちろん映画に順位などありませんし、点数を付けるなんて論外ですよね。ご意見ごもっともです。点数なんてまさに感覚、その時の雰囲気だと思いますし、順位なんてそのときの気分で変わるものです。ですが、そこを、あえて行う事にも意味がある事もあると感じます。印象に残った順位に、2018年12月現在の雰囲気を残すにふさわしい行為、とも言えると思うのです。当時を振り返って、あの時の感覚を、強引に点数や順位を付ける事で発生してしまう意味を、振り返って感じる事が出来るように。そんなわけで、2018円日本公開映画、という縛りで行います。
10位 「ザ・スクエア 思いやりの聖域」 の詳しい感想は こちら
話題作もたくさんありましたけれど、私は個人的に性格が捻くれているのかも知れません、10位にはこの作品を入れたいと思います。大変居心地悪くさせる映画なんですけれど、たくさん考える事がある作品とも言えます。イジワルな作りにはなっていますけどね。2018年の映画でこの映画を思い出す人とは話が出来そうです。でも、ちょっと蛇足感もあるんですけどね。
9位 「アンダー・ザ・シルバーレイク」 の詳しい感想は こちら
今年公開映画の中でもへんてこりんな、カルト的な人気が集まる作品と言えばこの映画だと思います。同じようなカルト的人気作品である「ビッグ・リボウスキ」とベクトルとして同じ方向を向いている感覚があります。この映画のノリに、乗る事が出来れば、結構な映画体験になりますけど、もし、飲み込みにくい場合は、苦痛な映画体験になってしまうかもしれません。でも、映像としてとても美しく、奇妙な演技をするアンドリュー・ガーフィールドが見られる作品でもあります。
8位 「ダウンサイズ」 の詳しい感想は こちら
アレキサンダー・ペイン監督作品ですから、ただ人が小さくなるだけの話しではないと理解出来ていても、結構びっくりな展開が待ってます。本当に個人的な意見ですけど、マット・デイモンさんが嫌な目にあっていると溜飲が下がって、個人的には清々しい気持ちになれます、ええ、凄く良くない表現ですけれど。
7位 「タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜」 の詳しい感想は こちら
コメディタッチの映画かと思いきや、大変ヘヴィーな映画でした。そしてとても良く出来ていると思います。ソン・ガンホさんは本当に韓国の名優だと思います。屈託ないこの笑顔は、ちょっと普通の人にはなかなか出来ないと思いますよ。
6位 「ウインド・リバー」 の詳しい感想は こちら
こちらもマイノリティのヘヴィーな現実を写した映画でした。急転するドアの演出、見事だと思います。私は幼少期に、たくさんの西部劇を 見させられて 来ました。好きな作品もそうじゃない作品もありましたけど、とにかく勧善懲悪で、必ずインディアンが負ける展開が、あまり好きじゃなかったんですね。でも、映画の見方の勉強にはなったかも、です。ダンス・ウィズ・ウルブスがヒットする90年代までは、支配される側の映画ってほぼ無かったと思います、有名な作品ではって事ですけど。でも、もちろん支配される側にも感情や理屈や生活がありますし、しかも大変リアルでヘヴィーな話しです。あ、感想で言い忘れてしまいましたけど、私、最後に同行してくれた人たちへの言及が全くないのが、この映画のポイントを下げてしまった部分です。主人公たちは、アレですけど、同行者はあくまで協力してくれていたのに、そこへの言及が無かったのは、かなり違和感があります。
5位 「犬が島」 の詳しい感想は こちら
猫が島だったら、ベスト3には入ってたと思いますね。でも、まさに命を吹き込む感じが、こういうストップモーション・アニメーションは本当に素晴らしい。今までで1番凄かったストップモーション・アニメーションはチェコの巨匠ブジェチスラフ・ポヤル監督の「ナイトエンジェル」です。何もセリフが無い作品なんですけれど、動画があったので載せておきますね。凄いです、何度見ても。わずか19分の作品ですけれど、今のところ私が見た中ではベストです。
4位 「ROMA」 の詳しい感想は こちら
おそらく、映画史の中に残る傑作、という評価は年を追うごとに高まるタイプの作品だと思います。これ本当にセットを作っているのだとすると、莫大な予算がかかってると思いますし、まさに動画配信時代の、Netflexの強さを見せつける作品。映倫を通さない公開も、個人的には称賛に値すると思います。
3位 「DEVILMAN crybaby」 湯浅 政明監督 Netflex
純粋な意味で映画ではなくやはり動画配信のNetflexでの連続ドラマなんですけれど、今年の東京国際映画祭で特集され、映画館でも上映された作品ですし、何と言っても映像作品として物凄い完成度、しかも原作に忠実。さらに天才湯浅監督の演出と永井豪先生の絵柄の、一見取り合わせが悪そうに感じていたんですけれど、これが化学反応を起こしていて、本当に凄かったので、今年のベスト3に挙げさせていただきました。アニメーションに抵抗が無い人なら、誰にでもオススメ出来る傑作です。
2位 「ハッピーエンド」 の詳しい感想は こちら
ハネケ監督作品でハッピーエンドってタイトルを付けられると、すっごく抵抗感ありましたけど、確かに、ハッピーエンドだったと思います私は。魂の開放、ガフの部屋が開かれる、アレですね。それにしてもハネケ監督76歳!貫禄もさることながら、一貫した姿勢にも打たれます。
1位 「万引き家族」 の詳しい感想は こちら
甲乙つけがたい、5位以上はどの作品も大好きですし、今の気分で、このような順位になりました。もちろん順位をつける事で生まれる意味も、ある程度考慮しちゃったりもしますけど。でも、単純に、この映画を見て衝撃を受けた、そして大変面白かったし、考えさせられたし、何回も観たいと思わせた作品。主役の男の子、本当に素晴らしい子ですね。
今年は「家族」に関する映画を多く選んでしまった感があります。私にとってのリアル家族映画と言えば赤堀 雅秋監督「葛城事件」なんですけれど。
で、今年だけ別枠がありまして・・・
0位 「バーフバリ伝説誕生」&「バーフバリ王の凱旋」 の詳しい感想は こちら
0位というのが1位の上なのか、下なのか、私にも分かりません。が、別枠の映画だったと思います。今年のベスト10を考えていたのですが、ベストとかそういう事じゃなく、とにかく比較とか順位に入れられない別枠、完全に異次元の作品として、バーフバリを挙げたいと思います。この映画は他の映画と比べちゃイケナイ気がします。比べる映画が可哀そうですし、完全に別モノ。エンターテイメントの今頂上にある作品だと思います。とにかく、スケールの違う、規格の違いを感じさせる傑作でした。
結局ベスト11になってしまいましたけど、今年は仕方ないと思います。今振り返ると昨年決めたベスト10も、私っぽいって思います(笑)
冨永 昌敬監督 東京テアトル
2018年見逃し後追い作品その15で最終回です。今年公開映画で言えばやっと40本です。まぁ36本を自分にノルマとして課しているんですけれど、今年もクリア出来ました。
編集者+サックス奏者としてとても有名な方、さらに赤瀬川原平さん、南伸坊さんなど、ひと味違う著者、考え方が奇妙に面白がるチカラがある人々と繋がりがある方、というのが私の印象です。自伝的エッセイの名著と言われている「素敵なダイナマイトスキャンダル」の映画化です。たしか、私も読んでいますけれど、とても変わったエッセイだった、という事は覚えていますけれど、細かな内用はあまり覚えていません、が、衝撃的な内用だった、という事だけは覚えています。何しろ1980年代前半に出版された本ですし。
岡山の山奥に育った少年、末井(柄本 佑)さんの母親が家出をして・・・というのが冒頭なんですけれど、まぁとにかく破天荒な方の自伝です、すっごく有名なエピソードなんで、しかもタイトルに使用されてますからネタバレしてしまいますけれど、お母様がダイナマイトで自殺されてしまう、という大変ショッキングな出来事を幼少期に経験された、末井さんの身辺雑記です、もちろんフィクショナルな部分もあると思いますし、映画化にあたって改変された部分もある事はあると思いますけれど、多分本質的には事実だと思います。
一見自棄な行動に見えますし、大変行き当たりばったりな感じもするかと思います、正直眉をひそめる方もいらっしゃると思います、性的な話題を好まない方には向かない映画だとも思います。ですが、性的な事は扱ってはいますけれど、これは『表現』の話しだと思います。また、同時代を生きた方にとってはノスタルジーさえ感じる映画だと思います。
いつも日本の自主規制団体、映画倫理機構、通称映倫がわいせつ、をどのように判断しているのか?とても曖昧で恣意的な部分が気になります。わいせつかどうか?を判断するのは、観客であり、受け手で良いと思いますし、そもそも制作者に対して大変傲慢な所行だと思います。わいせつな部分がゼロな人間は恐らく存在しませんし、人によってわいせつかどうか?判断が違うと思うのです。まぁそういう自主規制を行っていますよ、という統治者へのエクスキューズなのかも知れませんけれど。できれば極力『ぼかし』という新たな「表現」を勝手に作品に加えるのは止めて欲しいです。で、この映画はまさにその「表現」についての映画だと思います。
柄本佑さん、初めて演技しているところを見ましたけれど、かなり良かったです。瞳の奥にある、狂気を感じる事が出来ます。非常に醒めた狂気のような何かが滲み出ていたと思います。また荒木さんを演じている菊池成孔さんの演技が秀逸でした。また、お母さんを演じていらっしゃる尾野真千子さんも印象に残りました。
表現する事、について考えてみたい方にオススメ致します。
ウェス・アンダーソン監督 20世紀フォックス
好きな監督、と言いたいけど、フィルモグラフィー上は監督作9作中僅か1作しか見ていないので、そんな資格が無いんですけれど、そんな監督のストップモーションアニメーション作品と聞いて、観なければ、と思いつつ、劇場に行けなかった作品なので、DVDで見ました。
2018年見逃し後追い作品その13
クレイアニメとはまた少し違った感じの作品です。とにかく、触ってもいないのに、手触りを想像するに優しい雰囲気、命の無い物体に、命を吹き込めるかのようなクレイアニメを含むストップモーション・アニメーションが私は好きです。その中でも、人間よりも動物を主役にされるとより偏愛傾向が強くなってしまいます。今回はそれが犬であり、しかも舞台が日本!という事で期待値はかなり上がってしまいましたが、その期待値に答えてくれる素晴らしい作品でした!
20年後の日本、メガ崎市。小林市長は犬による感染症の恐怖から、すべての犬を島に送り込む政策を推し進めています。しかし、同時に民主国家として反対意見の陳情を許し渡辺教授に、感染症には血清が出来上がりつつある事を述べさせます。しかし、その政策を手緩いと批判、強権的に自身の政策を強行するのです。一方、小林市長の養子である天涯孤独の身のアタリ少年12歳は、自分の犬スポッツを犬が島に送られた事に憤慨し、単身犬が島に潜入するのですが・・・というのが冒頭です。
もう素晴らしい作品です。日本への愛とか、動物への愛に溢れています。とても細やかな演出、微細な美術、日本文化への憧憬とも言える感覚、オブジェの美しさ、美術の素晴らしさ、すべてが満足出来るレベルにまで昇華されています。
もちろん、日本人からすると、『メガ崎市』というカタカナ+漢字という表記や、相撲や和太鼓の表現、等に違和感を覚える人もいるかも知れません。が、私は監督ウェス・アンダーソンにとっての日本文化とイマジネーションと、尊敬の念を混ぜた結果のファンタジーとしての日本を描いた傑作だと感じました。だって犬が英語で喋ってるんですよ、この1点に置いても、この映画のファンタジーに乗って楽しめば良いじゃないですか。しかも日本人キャストには日本語を喋らせていても、同時通訳的な演出をしているんです。素晴らしいアイディアだと思いますし、日本文化へのリスペクトを感じました。
犬を、愛犬を探す少年と、捨てられた犬5匹の旅の映画って聞くだけで、かなり心がウキウキするじゃないですか。途中に能のような演出があったり、和テイストな音楽が多用されていたり、日本文化に対する想いと、そこに遊び心あるファンタジーが相まみえた世界、ずっと見ていたくなるようで、私は凄く良い作品だと思います。
また、民主国家であるから反対意見を述べる場を作りながらも、その場には狂信的で暴力的で手段を問わない荒くれものを集めているかのような状況の中で行う所にも、なんだか昨今の日本の政治状況を揶揄するかのような描写で秀逸でした。あくまで、民主的な手続きを踏んだ、と言う事実だけを欲しているのがうっすら透けるのが、本当にリアル日本社会の象徴であるかのように感じます。
【ちょっと愚痴りますけど、本当に、マジで、独裁国家みたいですね、最近の国政。普通、議会を通す段階で不備、もしくは欠点がある場合、それを修正する事が議論を深めた結果なんじゃなかったでしたっけ?馬鹿にして取り合わない、議論を深めるどころかするつもりがないのであれば、国会そのものがいらなくなる独裁に繋がる恐れ、真剣に危惧するに値する段階だと思いますね。ねじれ国会ってそもそも議論のやりがいがある状態なんじゃないんですかね?玉虫色の決着、それが議論を深めた結果なんじゃないですかね?相手に敬意を払わない輩を議員に選んじゃダメでしょう、そういう小心者で度量の狭い人は議員という交渉事には向かない人ですよ・・・権力者に最もしちゃいけない人なんじゃないですかね、そもそも尊敬に値しないです、政府も与党も、野党も・・・愚痴り終了】
英語表記と日本語表記の入り混じった世界で、まるでブレードランナーの世界にも感じられますし、恐らく、ですけれど、小林市長の造形が三船敏郎に見えなくもないんですよね。そういう意味でもリスペクトに満ちた作品です。
また、よくあるギャグマンガでの争いの最中を描くのに、大きな煙があって、そこから手足や顔をリズミカルに出して動かす手法を、このストップモーション・アニメで描いている部分、すごく懐かしく、それでいて斬新な手法だと感じました!すっごく面白く心動かされます。
これは同監督の「ファンタスティック・Mr.FOX」を見なければ!と強く思いました。
で、それでも、な部分もあって、私はネコ原理主義派なので。これが犬じゃなく猫だったら完璧!何しろ猫も出てくるんですけれど、全然喋らない上に、とても薄っぺらな扱いを受けていて、大変残念です。
もう1点の不満ですけれど、ネタバレを避けての感想なので伏せますけど、〇〇虐待者を死刑では行き過ぎなので、25万円の罰金とボランティア、と法律を変えてしまっているのですが、これは大変問題のある修正で、間違いだと思います。個人的には行き過ぎではないと考えていますし、出来れば同じ目に合わせた上で、その後執行したいですね。
日本文化とファンタジーに興味のある方、ウェス・アンダーソン監督のファンタジーに興味のある方、獣愛好家の方、犬派の方、ストップモーション・アニメーションに興味のある方にオススメ致します。