ウィリアム・フリードキン監督 コロンビアフィルム
フランス映画の巨匠アンリ=ジョルジュ・クルーソー監督の「恐怖の報酬」のリメイクをしたのが今回完全版で初めて公開された「恐怖の報酬 オリジナル完全版」です。私はフランス版を見ていませんが、この映画を観た友人3人がもろ手を挙げて絶賛していたので、足を運びました。正直、予告編もちゃんと見てなかったので、どんな話なのか全然知らないで観に行きました。同窓の先輩で、やはり映画に詳しい先生が2年ほど前に、フランス版の方をオススメして頂いていたのも記憶していたので、そのこともあって、是非とも、と思ってました。
メキシコ。窓辺に佇む男に背後からせまる暗殺者がピストルで一撃。その後足早に去る暗殺者。イスラエル。テロ組織に属するマルティネスは実行犯、爆弾テロを起こした後に味アジトを警察に踏み込まれ、唯一助かる。フランス、パリ。上流階級だと分かるセラーノは銀行から不正手続きの処理を指摘され秘書を恫喝するもその秘書が自殺し、逃走する。アメリカ、ニュージャージー。ドミンゲス(ロイ・シャイダー)はマフィアの一員として教会強盗の逃走中に仲間が死亡、その際仲間が撃った男は抗争中のマフィアの幹部の弟だった事で国外逃亡を企てる。そして南米のポルヴェニールに4人の男が、その日暮らしをしているのだが・・・というのが冒頭です。
ポルヴェニールが何処なのか?映画鑑賞後に調べてみましたところ、南米チリの南端のほど近い街だと分かりました。とにかく、物凄い僻地のように映画では映されています。今時(いや、1977年撮影の映画ですけど・・・)こんな場所何処で見つけてきたんだろう?というくらい、すさまじく荒廃した、村をロケ地に選んでいるだけで凄い事です。
ジャングルの描写も物凄いですし、途中大変スリリングな場面のひとつであるつり橋のシーンも、どうやって撮ったのか?分からないというか、物凄いお金をかけたんだろうな、というのが皮膚感覚で分かる映像ですさまじいです。自然というか、野生そのものが主役と言っていいくらいの存在感ある、ジャングル、豪雨、沼、です。人の手では抗いようのない野生、それを強く印象付けられます。
そして、訳ありな男たちの、狂気と紙一重の生命への執着、自然への抗い、1度負けた男たちの再起へのチケットをかけた戦い、生き様が見て取れます。
「恐怖の報酬」というタイトルはオリジナルのフランス版「Le Salaire de la peur」の英訳「The wages of fear」の日本語訳になっていますけど、コレは絶対「Sorcerer」の方がイイと思いますね。なんとなく、伝われば良いですけれど、マジックリアリズムをCG無しで映画化した中で最も成功している映画のひとつなんじゃないか?と思いますね。うだるような暑さの中、生死をかけた、誇りをかけた、再起のための戦いの軌跡。その熱量は、まさに魔術的な精神的高揚を表していますし、画面から伝わってきます。
もちろん、ロイ・ジョーズ・シャイダーは当たり前に素晴らしく、マルティネス役の方の演技も本当に素晴らしく、目に狂気を感じてしまいました。セラーノ役の方も本当に素晴らしく、地に落ちた上流階級者の、それでも捨てられない矜持を、時計と手紙に感じました。
また、これが本当にCGじゃないのが信じられないくらいの、炎、爆破、とくにテルアビブでのテロシーンのちょっと信じがたい、これ絶対怪我人が、負傷者が出ているとしか思えない映像に、度肝を抜かれます。
さらに、巨木のシーンですけれど、実際に撮影スタッフが爆破を断念してしまい、フリードキン監督が友人を呼び寄せて(その友人というのが爆破の専門家ではなく、というのが恐ろしいところです、出典が明らかじゃないので噂かもですけど・・・)その友人が、これなら、こうすれば爆破出来る、と言ってやってのけたそうです、そういう現場の話しを聞くのも恐ろしい感じ、まさに監督の魔術を感じます。
オリジナルも見てみたくなる2018年公開の見逃せない1本です。
キングの言う恐怖ではなく、マルケスのようなマジックリアリズムに興味のある方にオススメ致します。