吉田大八監督 アスミック・エース
2018年見逃し後追い作品その9
駆け足で消化しないと間に合わない・・・まだ観たい作品がいくつかありますし、大物も残ってるし。でも吉田監督作品ですし(あの「桐島部活やめるってよ」と「紙の月」という名作!!)、外せない!という事で見ました。
海辺の町、魚深市に勤めるツキスエは、上司から新たに6名の市民の身元引受を手伝うように依頼されます。実際に1人1人を駅や空港で出迎え、住居を斡旋していくのですが、どの人も非常に特徴があってツキスエは不安になって上司に問いただすと・・・というのが冒頭です。
国家的極秘プロジェクトとして、地方都市に仮保釈したいが、保護観察の引き受けてがいない受刑者を行政が肩代わりし、その代り過疎を止める計画、というまずこのアイディアはかなり面白いと感じました。
犯罪にも様々な程度があり、またそれぞれに様々なケースがあって、様々な被害者がいて、当然色々な加害者います。裁判を経て(つまり罪が法治国家において確定した)刑が確定、その刑期を終えた人、この人の罪は償えたのか?というのが大きなテーマだと思います。実際、前科という死んでも消えない刻印がされるわけで、その方々の社会復帰は必要だと思います。国家に仇討を法治管理する事で秩序を、モラルを維持している社会に住んでいる人間にとって大変大切なテーマだとも言えます。
さらに細かな、偏見との闘い、依存という病気、退屈に対する耐性、に加え、介護、恋愛、因習、地方都市、という本当に細かなトピックについても触れていて、かなり面白い設定を考え付いたその原作にも興味が出てきました。
主人公を演じている人は初めて見ましたけど、すっごく普通の人に、ちゃんと見えます。まるで役所広司さんを最初に認識した時と似てますけど、こんなに個性が無くて大丈夫か?と心配になるくらい没個性的に見えましたし、それはキャスティング的に大事だと思いました、このキャラクターを演じる意味では。
逆にヒロイン(?なのかな?)的な都会からの没落者としてのアヤの人も初めて見ましたけど、私がギター弾けないから余計にそう見えるのかも知れませんけど、ギター弾くの上手いです。もしかしてバンドの演奏者からキャスティングしたんでしょうか?ある意味死んでる目が表現出来てて、そこも凄く良かったです、整った顔立ちですし。でも印象にあまり残らないんですよね・・・
元受刑者を演じている6名の方々がどの方も説得力ありました。共通しているのが、顔を含むスタイル等の洗練された感じが、この田舎町の群衆の人々と、どう考えても異質に見える、という点です。衣装や髪型とかではどうにもごまかせない、一定水準以上に達している感じが、街の雰囲気、駅前や空港、市役所にいる人々(もちろんその方々もキャスティングされてるんでしょうけれど)とのギャップだけで、何かしらの異質感が際立っていて、そこがとても面白かったです。
凄く気弱そうに見えてアルコールに異常に反応する男性、人見知りを突き抜け会話もほぼしない尾頭ヒロミ、臭い立つエロティシズムを感じさせる女、暴力団組織に出所の日にまで絡まれる寡黙な老人、粗野で大変乱暴な雰囲気を纏う男、とらえどころがないというか表情までも均一に見える若い松田龍平。それぞれに心に何かを抱えているように見えますし、更生しているようにも見えます。その辺の匙加減は絶妙だと思います。
で、多分賛否の別れるのは、のろろ様、だと思います。突然、非常に現代的テーマの中に、諸星大二郎的なニュアンスが入ってくると、ギョッとします。この1点がフレッシュと言えばフレッシュだし、使い方を間違うと、手垢のついた、という事になってしまうのではないか、と。
それでも、個人的には、悪くない作品だと思います。惜しむらくは、のろろ様の扱い、因習の差し込み方、ですかね。まぁこういうのを知ってる人は、こうなるだろうな展開でしかないんですけど。
私は観客の視点に立つ主人公ツキスエは、とても常識的な判断、常識的な行動をしている部分を肯定的に捉えます。前科は消えないし、犯した罪も消えないけど、人間って間違うモノだし、それを抱えて次の機械に生かすしか出来ない生物だと思います。そうやって進化もしてきているし、だからこそテクノロジーも進歩するし、成長するわけです。しかし、進化にも袋小路のような事が起こりえます。その袋興治に進化した大変珍しい存在と、あいまみえてしまったツキスエの行動は、映画とは違った展開もあり得たとすると、どうなるんだろう?と想像してしまいます。また、大変不謹慎な発言かも知れませんけれど、ある人物の「それでもやめられない」という言葉から悲哀を感じました。蛙と蠍のたとえ話の事です。サソリは河を渡る事が出来ないのでカエルに背負って河を渡ってくれるように頼みます。もちろんカエルはそんな事は出来ないし、私は食べられるのが嫌だ、と答えます。するとサソリは「そんな事するはずない、河を渡っている途中で毒針を指したら私もおぼれて死ぬんだし」と。そこでカエルはサソリを背負って河を渡る事にするのですが、河の途中で毒針に刺され、朦朧とする意識の中でサソリに聞きます「なんで刺したの?2人とも死んじゃうよ」サソリは答えます「我慢したけれど、それが性分なんだよ、ごめんね」という話しを思い出すのです。性という悲しさをこの映画のある人物にも、同じように私は感じました。
刑期を終えた元受刑者、という人と、どのような関係を構築するのが良いのか?性善説か性悪説か?田舎という閉鎖空間に興味のある方にオススメ致します。