友人の知り合いのご紹介で手の取りました。クリムトの有名な絵画の所蔵に関する、第2次世界大戦、またナチスの映画でもあります。
1998年のロサンジェルス。オーストリアからの亡命者である老女のマリア(ヘレン・ミレン)は家族同然の付き合いのあった作曲家シェーンベルクの甥であり弁護士になっていたランディに、クリムトの絵画『黄金のアデーレ』のモデルは自分の叔母で、その肖像画はナチスによって奪われた事を相談するのですが・・・というのが冒頭です。
老女マリアの、おばさんでありながら、長い間貴族、それに伴う役目や知識やルールやマナーや責務や自負を、担っていた人に現れる無自覚な命令口調と、おばさん特融の相手への配慮があるようで全くない上に貴方の為を想って、的な強引さも相まってなかなかな人物なんですけど、これを世間ではカワイイとか言いそうでちょっとギャップを感じます。まぁ愛嬌があるので、そして物語が進むと、同情的になっていくので最終的にはひっかかりは感じなくなりますし、愛らしくも見えるんですけど、冒頭は結構インパクトありました。全然気が付かなかったけどヘレン・ミレンさん当たりまえに演技が上手いです。
また、甥っ子ダメ弁護士をライアン・レイノルズが演じていて、これも言われるまで気が付かなかったくらい、地味な人に見えました。途中からマリアよりものめり込んでいくんですけれど、その動機としての、ユダヤ人としての誇りのような何か、単純に誇りとかプライドではない、出自に関しての感情ではなく、その後に生きている者の責務、歴史を背負う事は誰にも出来ないけれど、背負おうという心持ちを大多数の人が感じる事でしか成しえない事への共感とも言うべき何か、に突き動かされていく様は、結構説得力がありましたし、大変控えめな演出が、逆に良かったと感じました。
クリムトの絵が好きか?と聞かれると、黄金の使い方に好みを感じない部分はあるものの、当たり前ですけれど圧力凄いですし、生で見たら相当やられそうです。金を何故こんなにとも思ってましたけど、そもそも金箔職人さんで修行されてたんですね。煌びやかで直接的なエロティシズムなのでしょうか?でも底辺に流れる『死』を感じさせる部分はかなり好きな感じです。
ナチスの行いの中でも様々な側面があると思いますけれど、財産没収も本当に酷い話しです。が、当時はナチスを生んだのが民主主義的制度にのっとって行われていたわけですし、オーストリアというドイツ国外の占領地であっても、ナチスに協力する市井の人はいっぱいいたわけですし、その場に私がいたら、加担していたかもしれないと思うと、本当にぞっとします。この辺の事はポール・ヴァーホーベン監督の映画「ブラックブック」(の感想は こちら )が最も鮮明に描かれて(まぁ誇張もあるでしょうけれど・・)、とても恐ろしいです。当たり前ですけれど、ホラー映画なんかよりも数倍恐ろしいと思いますね、生きてる人間の方が。
クリムトに興味のある方、絵画に興味のある方、ナチスの行いの余波に興味のある方に、オススメ致します。