クリス・スミス監督 Netflix
ラジオ番組の特集「人類はまだ大丈夫なのか?」という番組で紹介されていたドキュメンタリー映画なので見ました。もう一つ紹介されていた「ビハインド・ザ・カーヴ 地球平面説」(の感想は こちら )も大変恐ろしい内容で、現実感がどんどん希薄になっていくようでしたが、こちらも、なかなかに凄い内容でした。
俳優や有名人をパーティなどに呼ぶ際は、所属事務所等に連絡しなければなりませんが(当たり前ですね)、そうではなく、直接交渉できるサイト・FYREを立ち上げようとしている起業家ビリー・マクファーランドとラッパーのジャ・ルールの2人です。そのサイトを有名にするために、彼らはちょっとしたアイディアから、フェスの開催を企画します。それがFYREフェスティバルです。バハマのある島で大規模なフェスを開催しようと試みたのですが・・・というのが冒頭です。
起業家はアイディアを形にするまでが仕事だと思いますけれど、そのアイディアを形にするのが最も難しい事だと思います。この映画の場合はあくまで宣伝のために、経験のないイベント業を行って行くのですけれど、とにかくビリーという男の、大変大物ぶった素振りが印象的です。ですからどことなく怪しいと感じる人もいれば、同時にすごく信頼感があると感じる人がいてもおかしくないように、見えるのです。
で、いろいろ見ていくと、かなり大きな事を言っています。バハマに適当な島を見つけたので購入した、とか、出演ミュージシャンと交渉して決まった、とか、です。実際本当に購入なり、契約なり出来ていれば本当にスゴイ事です。ですが、実際のところは違ったわけです。
バハマまで実際に行き、宣伝効果の大きい世界的モデルを集めて、パーティをしているところを映像に収めます。そして彼女らのSNSから発信する、というまさに現代的な宣伝の仕方を行います。ですが実際のモデルは、ここに何をしに来たのか?さえ知らされていなかったのです・・・ですが、この宣伝の動画は瞬く間に広がり、発表してから翌日までに、大変高額なチケットなんですが、95%まで売り切れてしまったのです。
この後、さらなる混乱につぐ混乱が待っているのですが、それは見ていただくとして、とても気になるのが、ポジティブシンキングについてです。
ポジティブシンキングはもちろん重要な事でしょうけれど、しかし現実を見れないポジティブシンキングは、ただのバカだと思います。もちろんネガティブだから良いという事にはなりませんけれど、しかし何かに備える、という事はネガティブな発想が必要です。何でもそうですが、程々、というのが難しいですね・・・個人的には、そうしたアッパー思考、上昇志向は、自己啓発に結びつきやすく、また自己啓発的なるものは、非常にスピリチュアルなモノとの親和性が高いと感じます。思考は実現する、というのはとても有名な自己啓発のフレーズですけれど、もちろん、現実化する事もあれば、しない事もあるのは考えなくても分かると思います。その考えに執着し、現実を見なかったビリーは虚言と詐欺に手を染めてしまいますけれど、それがどの時点だったのか?凄く興味があります。
結末はさらにヒドイ展開でした。本当に起こって欲しくない出来事の連続です。ですが、何とかなる、でずっと来てしまって、自業自得なんですけれど、周囲の人も大変だったと思います。
また、宣伝、という事についても考えさせられました。宣伝というよりももはや詐欺なんですけれど。でも、その詐欺が巧妙になっていった場合、どこまでが自覚的で、どこからが違うのか、もっと言えば誰に何処までの責任があるのか?を考えさせられます。
宣伝というか広告の世界では、ビリーはある程度の立場を作れた男なんです。広告の世界の危うさ、も描いていますけれど、受け手のリテラシーも、常に求められる世界になってしまったのだなぁ、と感じました。自由で誰もが(このブログも、まさに)何かを発信できる世界、素晴らしいけれど、だからこそ、リテラシーも求められます。個人的には教育に今、最も求められる事だと思うんですけど。
ドキュメンタリー映画が好きな方にオススメ致します。