ヨルゴス・ランティモス監督 20世紀フォックス
2019年見逃し後追い作品その1
2019年も11月、早いですね・・・今年もあまり映画館には足を運べなかった方だと思います。今のところ25作品という所でしょうか。旧作と言いますかNetflixがあるのでそちらに段々と移行してきてしまっている感じがします、昔のとしまえんCMで水は高きところから低きへ流れる、というのがありましたけれども、まさにそんな感じで安易な方に流れていくものですね・・・そんなわけで見逃してしまった作品を追いかけておこうと思い、今年は早めに始める事にしました。
ヨルゴス・ランティモス監督、ギリシャの方です。私が最初に観たのは「籠の中の乙女」(の感想は こちら )ですし、その後の「ロブスター」も好きな作品です。まぁかなり変わった監督さんでもありますけれど、私はこの不穏さが、好きです。次作の「聖なる鹿殺し」は未見なのですが、この「女王陛下のお気に入り」はちょっとなんかヨルゴス・ランティモス監督っぽくないぞ!と思っていたのですが、そこにアカデミー賞の主演女優賞に決まった事もあって、次第に観たい欲がするすると減衰してしまいました。だいたいにおいて、アカデミー賞って何か違う感覚があるし、そもそも賞をありがたがるのは、何か違う感覚があります(その辺の話しは最近観た『蜜蜂と遠雷』の感想で)。○○賞を受賞したくて作品を作ってる人ってそもそもダメだと思いますし、作りたいモノを作った結果、受賞するならまだしも、とか思ってしまう、面倒な人間です。なので、ええ、あのヨルゴス・ランティモス監督の映画が受賞って?と思ってしまったわけです。ま、でも見てみないとワカラナイものです、当たり前ですけれど。
今作はヨルゴス・ランティモス監督の脚本じゃない、というのを見終わった後に調べて気が付きました。だったら、納得。監督業に徹底しているのだと思います。脚本が全然ヨルゴス・ランティモス監督っぽくなかったので、そこが印象的でした。とても万人受けする映画だと思います。
18世紀のイングランド、女王アン(オリビア・コールマン)はフランスと戦争中です。しかも体調が優れず、友人で信頼のおけるマールバラ侯爵夫人であるサラ(レイチェル・ワイズ)とこの国難を乗り越えようと、議会と協議しています。とはいえ女王の心は完全に国家の事に支配されているわけでは無く、日々鬱々としています。そんな中サラを頼って没落貴族のアビゲイル(エマ・ストーン)が職を求めて宮殿にやってきて・・・というのが冒頭です。
まずこのキャスティングが凄い!その上美術や衣装も大変チカラが入っていて、素晴らしいです。何といってもこれはまず美術とキャスティングがずば抜けています。中でもキャスティングで言えば主役級の女性3名を連れてきた事が凄い。特に、観客の感情移入先として新参者であるアビゲイルにエマ・ストーンが華やかです。エマ・ストーンの出演作だと私は「ラブ・アゲイン」(の感想は こちら )と「Superbad」が素晴らしい作品だと思います。明るく華がありますね。さらにここに男勝りな凛々しい女性サラにレイチェル・ワイズ!が当たり役!この人は私は「ナイロビの蜂」(の感想は こちら )と「否定と肯定」(の感想は こちら )を見ていますけれど、何といっても「否定と肯定」の時と全然違う人に見えるんです。役者さんって本当にスゴイです。
しかし、個人的にはこの2人を完全に喰っているのがオリビア・コールマンです。
本当に申し訳ないんですが、オリビア・コールマンさん、全然観てないです。Wikipedia情報ですと「ホット・ファズ」にも出演しているようですが、全然覚えてないですね・・・ですが、この方45歳!私より年下!!しかもレイチェル・ワイズよりも年下!!!全然分かんなかったです!!!!!
構造的に、このオリビア・コールマン扮するアン女王をどちらが気に入られるか?の話しをしています。この、どっちにも自由気ままに肩入れ出来るのに、本人にも、自分の気分を変える事が出来ないエキセントリックな人としてのアン女王の存在感が凄い。
女王、おそらく自由がほぼ効かない状態で、しかも流産や死産を17回も経験している(それだけ世継ぎが重要な事だったとはいえ!)女性の、その上女王の、寂寥感はすさまじいモノがあると思います。しかも、放り出せない責任が、ずしりと全身に覆いかぶさっているという事実を考えると、このようなキャラクターが居たであろうことを十分に想像させます。その上で、その想像の少しだけ斜め上に仕上がっていて、大変面白いです。私はエマ・ストーンもレイチェル・ワイズも好きな俳優さんですが、今作はオリビア・コールマンが断トツで素晴らしいと思います。もう、こういう人にしか見えないです。
全編、女性同士のブラックな騙し合いや駆け引きやマウンティングが続くので、ここを面白い!と捉えられるのであれば、かなり好きな作品になると思いますし、そうでないのであれば、やや評価は落ちると思います。が、ゴージャスな映画である事は間違いありません。私はあまりに女性同士の駆け引きが続くので食傷気味になりましたが、これは私が男性だからで、多分男性同士の騙し合いやらバディ感ある映画だったらかなり好きな作品とか言ってると思うので(例えば最近の映画ですと「ナイスガイズ!」がその典型)、いわゆる私の偏見だと思います。でも、いくら何でも男性が描かれていなさすぎ!とか思ってもいるのですが、多分それだと私が好んで観ている映画はほぼ女性が描かれていない、というご批判には、その通りでございます、とお答えするしかない映画が好きなので、これもまた偏見というモノだと思います。
ただ、ヨルゴス・ランティモス監督作品、という文脈でとらえるのであれば、個人的には物足りない、と感じましたし、こういう映画で言えば「アマデウス」みたいな感じだともっと好きなんですけれど、まぁこれも私の偏見と言えると思います。でも、アマデウスの方が深みを感じてしまうのはなんでなんでしょうかね?ちょっと考えると、恐らく私が女性に、こうであって欲しい、という女性性を勝手に、期待している、という事なのかな?とも思ったりします。もちろん女性同士で争う事ってあるでしょうし、いがみ合う事だって、策略や陰謀だってあってしかるべきだし、それでいいけど、でもあんまり見たいものでもなかったし、それで2時間は結構キツいと感じてしまいました。また、とあるカップルの最初の1日の部屋での描写は、もし女の人だったら可笑しく笑えるとも思いますけれど、私はあんまり笑えなかったなぁ。
でも、そういったフェアネスって重要な事だと言いつつも、好み、の問題として、私はヨルゴス・ランティモス監督監督作品ならやはり断トツで「籠の中の乙女」の不穏さが好きです(でも役者さんのその後を聞くと、ちょっとどうかと思いますけれど)。あくまで、女王陛下に気に入られる、話し。でもその女王の環境、境遇を考えると、やはり悲しいモノを感じました、うさぎ、カワイイのに悲しくなるです。
あと、基本的に史実に沿った(もちろんある程度のフィクショナルを含む)モノである、というのが1番この映画の驚いたところです。女王に何もかもを背負わせておくのはあまりにキツいと思いますけど。
宮廷モノ、女性が争う作品が好きな方にオススメ致します。