ピーター・ワトキンス監督 キングレコード
1971年、私が生まれた翌年の公開映画、つまりおよそ50年前の映画です。
ですが、凄くブラックな映画だと思いますし、ベトナム戦争のさなかの、その時代の空気を切り取っています。
注!とはいえ、ドキュメンタリー調ではありますが、フェイク・ドキュメンタリー作品です。ですから、大変、悪意に満ちた、とも言えますし、こういう未来が来ないとも限らない、という警告でもあったと思います。
そして、再三思うのですが『人は自分が正義だ、と思い込む事で、どこまでも残酷になれる』という事です。
争い事の多くは、正義対正義だと思うんですけれどね・・・
映画の冒頭のナレーションを、文字起こししました。
もうこれだけで、不穏な空気しか感じられません。
原題「punishment park」もうこれだけで何をかいわんや、です。
1950年国内治安法通称『マッカラン法』第2部によると米大統領は議会の承認なしに以下の決定をする権限を持つ
米国内に内乱が生じた際”国内治安の緊急事態”を宣言する事が出来る
大統領はその際危険人物を逮捕し拘禁する権限を持つ
危険人物とは、正当な根拠のもと破壊活動をする恐れがあるとみなされた者を指す
逮捕されたものは審理にかけられる
保釈は認められず、証拠は不要である
審理のあと 逮捕者は 拘置所に拘束される
この冒頭のナレーション後に、カットバックしながら、被疑者の集団に、略式簡易裁判が行われます。
しかも、ほぼ反論の余地が無く(この辺りの描写が、秀逸!裁判官が相手側に明らかに立っている裁判を裁判とは呼ばないと思うんですが)、懲役刑10年以上 か 懲罰公園に3日間の奉仕行動に行くのか?を選択させられます。
全くヒドイ2択なんですけれど、まぁ自らが選んだ、という刻印を押す訳です。この辺が周到なんですよね・・・
懲罰公園に向かった先については、映画をご覧いただくしかないんですけれど、まぁ地獄です。
つまり、このようなディストピアを想起させ、映画を作らせるくらい、ベトナム戦争が、いかにアメリカに暗い影を落とし、どれほど世論を二分したのか?が分かる作品。
正義の名の元の暴力、に興味のある方にオススメ致します。
私は歴史を学ぶことを、大人になって面白くなる体験をしました。
歴史の授業を面白い、と感じる事は無かったんですが、歴史の面白さに気付かせてくれたきっかけは、みなもと太郎著 漫画「風雲児たち」を読んだ事です。
歴史の事象は、時間軸という縦軸と、人の成し遂げた事や生き方という横軸のまじりあいで出来ている、という面白さを、学ぶ事が出来ました。
そこから、司馬遼太郎も読みましたし(とはいえ脱線が多すぎると感じましたし、ちょっと称賛も過多な気がします)、どちらかと言えば吉村昭の方が好みになりましたし、塩野七海でローマやイタリアを知る事も出来ました。
気になった人物と言えば、江川太郎左衛門英達、そして、フィリッポスⅡ世の2人です。この人たちの本は出来るだけ探して読んだと思います。
人物を知る行為の中ではなかなか知りえない、もう少し長い尺度が理解出来るようになったのも、歴史の面白さに拍車をかけると思います。
例えば、小笠原諸島の領有権をアメリカと争う外交の時に、日本に有利に働いたのは、松平定信に出版を差し止められた、林子平の三国通覧図説(日本では発禁処分です)で、オランダ経由でヨーロッパに入り、当時のヨーロッパでは、唯一と言っていい日本語が読める、日本人漂流民を雇って(帰国は刺せてもらえない・・・)日本人学校を作っていたロシアに漂流した大黒屋光太夫一行の一人でロシアに残った新蔵が翻訳した、という事実が、端的に表していると思います。
そんな歴史を知る事の楽しさ、その時間軸の長さ、さらにそこに『人』が介在した事で波及する波のような影響を、楽しく知れる媒体を新しく知ってしまいました。
それがYouTubeで観れる コテンラジオ です。
たくさんコンテンツがある中でも、ジャンプの漫画が好きだった、という人にすすめられる、このアレクサンドロスⅢ世の話し、是非見て頂きたいです。
3人の人の、この会話の化学変化が起こる様が、凄く面白いです。
要約して教えてくれる深井さんの知識の深さと面白さ、なんでも少年ジャンプ漫画にパラフレーズしてくれる司会者の樋口さん、絶妙なツッコミと何でここで?というボケがたまらないヤンヤンさんの3人がキャッキャ言いながら話す歴史の話し、凄く面白いです。
とにかく、フラットで、相手の文脈で歴史を学ぶ、そして俯瞰する、という行為がタマラナイです。
歴史が好きな方に、オススメ致します!!
岡本喜八監督 東宝
1942年(昭和17年)8月7日、その当時はガダルカナル諸島への米軍上陸から米軍の反攻が始まっています。そして1944年7月7日サイパン玉砕・・・沖縄には当時第32軍が配備され司令官は渡辺中将。航空基地を確保し、洋上で敵を迎え撃つ戦略です。沖縄の離島に3つの滑走路、そして沖縄にも3つの滑走路を建設するべく、軍・官・民が最大限の努力を払いますが未だ完成していない、その時にサイパン玉砕の報が入ります。渡辺中将以下、軍とは名ばかりの勢力で、しかし、その中でも中将は沖縄県民に、軍と共に玉砕を覚悟して欲しい、と講演をする毎日です・・・というのが冒頭です。
この映画はナレーションがありまして、ルパンⅢ世の次元大介役で有名な小林清志さんがされています。凄く淡々としたナレーションです。
この後、沖縄への兵力増強として、牛島中将(小林桂樹)を32軍司令官に任命、長参謀長(丹波哲郎)、八原高級参謀(仲代達也)が配属され兵数は約10万にものぼる軍人が沖縄に駐留するわけですが、皆様ご存知の通り、敗戦するわけです。その敗戦に至るまでの沖縄の様子が克明に再現されています。もちろんどこまで史実なのか?私には分かりませんが、相当にヒドイ闘いであったことは、無条件降伏して敗戦している事からも良く分かります。
また中学生も通信兵として、志願者を配備しています、本当に志願者ならいいんですけれど・・・今の自粛警察なんて言葉が存在する日本ですし、江戸時代から隣組制度を敷いている国家ですから、同調圧力の強さから言っても、絶対に志願兵だけだった、とは言いにくいですよね・・・
中学3年生は鉄血勤皇隊として1700名、女学生は陸軍病院で看護教育を受けています、その数約500名との事。そういう描写もかなり多いです。
また、約2万人の沖縄民間人を陸軍として徴用しています、19歳から45歳の男性がこれにあたります。
慶良間では非戦闘員への自決を強要したりもしています。
と、非常に重い話しを、ずっとナレーション付きで見せられます、大変にヘヴィです。
米軍の沖縄上陸の際ですが、1500隻から4個師団が上陸、この日、32軍は反撃をしていないので、易々と上陸できた、とアメリカ軍付きの記者が書いている、と映画では伝えています。八原はいまこそ航空機で叩くべきなのに、と大本営に対して報告していますが、その航空機が無い上、とにかく陸軍と海軍の仲たがいが大変に問題ありますし、すごく日本的だと思います、勝てるわけがないと思いますし、その戦闘行為で亡くなられた多数の方の無念を思うと、悲しくなります。
夜襲をかけようとする長参謀と、無理なのでやめようという八原高級参謀のやりとりが、大変考えさせられます。凄く精神論の長と、合理的判断の八原、対照的です。ですが、八原高級参謀も、もちろん軍人なので、ラストのラスト、なかなかな言葉をかけられていますし、その前に上官のある場面を守るために、階級の低い兵士(といえども普通の人)を盾にする行為には、結構な残忍さも感じました。
総攻撃2日目米軍死者1000名に対して、日本軍側の被害は5000名・・・いくらなんでも、ですよね。
義烈空挺隊 最後の沖縄への兵力投入、というか、見切りをつけた、という事実も、相当に重いです・・・
南風原陸軍野戦病院では2000名が自決・・・摩文仁に軍司令部が置かれてからの惨状・・・どこまでも続く陸軍と海軍の軋轢・・・そんな中の民間人からの志願兵・・・
あ、途中の海軍上官に、池部良が出てきて、良かったです、この人はかなり好きですね。昭和残侠伝、カッコ良かったですし!
悠久の対義に行くべし まだ真意は分かりかねますが、これまた重い言葉・・・
牛島中将は最後に兵士を逃がすんですけれど、もう少し何とか出来なかったのか?考えてしまいますね。
この映画のラストの方に、老母が出てくるんですけれど、物凄くシュールな展開なんですが、そのシュールな展開を見ていても、大変重苦しい気持ちにさせます。
多分これは見た事を忘れさせてくれないヤツです・・・
沖縄に興味のある方に、オススメ致します。
パトリシオ・グスマン監督 アップリンク
チリの映画、観た事が無かったと思います。アルゼンチンの映画は、名作「瞳の奥の秘密」(の感想は こちら )をはじめ何本かありますし、ブラジル映画もありますけれど、チリの映画、そしてウルグアイの映画はまだ観てなかったのと、個人的にすごく気になる人たち、という意味でヤーガン族の事が気になっています。写真として残されてもいますし、文献もありますけれど、とても不思議です。何かしらの前衛アート作品のような存在なんです。知ってる人は知っていると思いますが、パタゴニアの先住民族の人々です。
かなりの極寒の地で生活していたとは思えない、裸族なんですけれど、身体に油を塗る事により寒さに対抗するという、現代の人類とは別の進化を遂げた、と思わせる先住民。なんだかいろいろな可能性について考えさせられる存在だと思います。
そもそもチリという国を良く知らなかったので、トリビアルに知識を得る、という事についての面白味と、映像のとにかく美しさ。この2つが異常に良かったです。
もちろんピノチェト独裁政権の事も知らなかったですし、ジェイミー・ボタンなる大変奇妙な人生を送った人の事も知れたのは良かったです。
しかし、途中から、大変、スピリチュアルな思想の話しになってしまい、その部分は乗れませんでした・・・水は記憶を持っているという主張は、誌的な意味で、ポエミーというのであれば、まだ、受け入れられるんですけれど、割合真剣に言ってる感じがして、それはちょっと。
ただ、映像は異常に綺麗で、環境映像としては、素晴らしいです。
フィルダー・クック監督 ワーナー
ある映画好きな友人の方にオススメいただいた映画です。
私は西部劇が、そもそも好きじゃありません。多分幼少期に、あまりにたくさんの西部劇を見せられたから、だと思います。もちろん、西部劇にも素晴らしい作品があり、そして残念ながらそうでもない作品もありますけれど、総じて、勧善懲悪で、深みが無い、そして、結局のところ暴力で解決、という子供じみたところが嫌いなんです。
それでも、西部劇を浴びるように観た事は、それなりの教養にもなっているかもしれない、とは思いますし、映画への敷居が下がった事も良かったと思っています。
少しは話しはズレますが、前衛を理解出来るのは、その道に、かなりの程度精通した人だと思うのです。もちろん前衛ですから、何も知らない人から見たら、それはなかなか理解出来ないものだと思いますし、中には眼をそむけたくなるような内容も含まれると思います。しかし、芸術作品は往々にして、他者を傷つけるモノでもあると思います。知らなかった過去には決して戻れない、という意味でのイニシエーション性を持ち合わせています。どんな芸術も、余りに前衛的過ぎるモノは、当時には理解されなかった事が多いからです。モーツアルト、ゴッホ、H・P・ラブクラフト、グレゴール・ヨハン・メンデル、それこそ枚挙にいとまがないです。
しかも、そんあ芸術作品のなかでも、映画という芸術は、画像や音象など、進化していくので、劣化があると思います。
しかし、映画芸術、エンターテイメントの中でも、劣化しにくいのが、脚本、ストーリィです。
私は音楽の趣味もそうなんですけれど、前衛的なものではなく、今も、10年後も、輝きを放つ映画や音楽を探しています。でも、逆説的ですけれど、だからこそ、今の、現在の、音楽や映画を観続けないと、その感覚は失われてしまうと思います。鍛錬しないといけない、という事ですね。自分という入れ物に収めておきたい良質な芸術をたくさん見つけたい、それが人生を豊かにする、という事だと思ってます。
そういう意味で、この映画は、万人にオススメ出来ると思います。
何も言いたくありません、ただ、多くの人に観て頂きたい作品、この作品は劣化する事の少ない作品だと思います。
とにかく、オススメです!!!!!!!