井の頭歯科

増村保造監督作品 その4 「妻は告白する」を観ました

2020年5月7日 (木) 08:38
増村保造監督     大映
ご紹介していただいた方の1番のオススメ作品でしたので大変期待値が上がりましたが、流石の作品でした。しかし、多分私はこの作品を、理解できた、とは申せません。

裁判所に向かう喪服の彩子(若尾文子)に記者がぞんざいな問いかけをしています。彩子を庇うように振る舞う幸田(川口浩)に守られて、弁護士と裁判に入るのですが・・・というのが冒頭です。

この冒頭の、それとなく細かな説明はされないけれど、あ、彩子は被告人なんだな、とか、裁判の争点は故殺か緊急権との争いなんだな、とかが、開始5分で全部わかるようになっています。こういう部分のコンパクトさ、手腕は監督のモノだと感じます。

私には、なんだかよく分からなくなってしまいました・・・

ネタバレあり感想は、後述しますが、しかし、本当にこの増村監督の技術の高さ、作品の幅の広さ、ジャンルを超えられる凄さには驚かされます。

また同時に若尾文子さんの演技にも、大変驚かされました。この映画は、成瀬巳喜男監督の傑作『乱れる』の高峰秀子に匹敵する、若尾文子が見られるというだけでも十分に評価に値する作品だと思います。私は成瀬己喜男監督作品をそんなに熱心に見ているわけではありませんが(しかもなかなかDVDにならなかったし・・・)、間違いなく最高の1本だと思ってます。「浮雲」を代表作にする感じが強いですが、私は全然「乱れる」が最高だと思いますね。その主演高峰秀子さんの凄さに匹敵する、若尾文子の凄さだと思うのです。

苦悩する顔、酷い仕打ちに対する怒りの顔、世間の無理解に困惑する顔、親しい人に魅せる穏やかな顔、愛する人にだけ見せる顔、等々、大変に美しい七変化が見られます、さらに和服で雨に打たれたりする姿もありますし、水着姿まで披露してくれますから、若尾文子ファンにはたまらない作品だと思います。

女性の人に、そして若尾文子のファンの方に、オススメ致します。

なんか、いろいろ考えすぎて陽明学まで行ってしまいましたので、

アテンション・プリーズ!

ここからネタバレありの感想になります。未見の方はご遠慮ください。

色々考えてしまいます・・・
だって、やはり彩子は夫を嫌悪していて、そして好意を寄せる男の命も危ない状況で、自分を救い(自分の上でロープを切る事も出来たのです)、且つ幸田(川口浩)も助ける事が出来た。ここまでは、割合問題ないと思います。そりゃ好意を寄せる方を助けたいに決まってる。
その後が問題なんですよね・・・ そりゃ確かに心細いし、幸田にすがりたいのも理解出来るが、せめて裁判が終わってから幸田に思いを告げる、その方が幸田の負担が少ないのでは?という幸田がどう感じるのか?という相手への配慮が、この彩子には全然足りないのでは?と感じるのです。
相手の会社にまで電話をかけたり、押しかけたりしている。そして、多分この人彩子は世間的にはどう見られても構わない、しかし、幸田にだけは分かって欲しい、という視野狭窄も含んだ純粋性を盾に、結構押してくるタイプ。うん、私は結構なホラーとも言えると思いました。
幸田も幸田で、この人はまさに対照的で、周囲の空気や情緒に流されまくりで個人というモノが無い。どこまでも受動的な行動原理なんですよね、可愛そうと思う心に偽りはないだろうけれど、同情心だけで答えられる責任の範疇を超えている。そういう物凄く日本的な男性に感じました。 1番分かり易かったのは、やはり新たなアパートを借りる辺りですよね。ここはなかなかの恐怖シーンです。生命保険金は、あくまで収入、と言い切る事が出来ないと、なかなか難しいです。でも、この彩子には自分の世界というモノがある。ただ、割合よく間違う、という部分ももう少し覚えていて欲しい。先の夫についてもいろいろ彩子にも問題はあったと思う。そもそもの始まりからして現代で言えばハラスメントにあたるとは思うのですが・・・
ただ、私の無理解、また女の人が何を考えているのか?分からなさ過ぎて本当に全然違う生物として、受け取ってしまうので、彩子が何をしたいのか?が不明に感じました。 まっすぐ過ぎるので、かえって何を目的としているのかわからない怖さと申しましょうか、そういう感じがあると思うのです。
私がこうしたい、という欲望にまっすぐ過ぎて、その表出と欲望が同ベクトル過ぎて、怖く感じます。
周囲の人に、いや、一緒に行動を起こそうとしている人に対して、どうしたらより良く理解していただけるか?という思考が、さっぱり無い、のが恐ろしく感じた、という事なんですが、ご理解いただけるか、微妙です・・・
普通は相手にも理解して頂けるように、説明をしたり、こちらの意図を理解してもらおうと、相手の立場になって、相手に分かる言葉を使おう、とすると思うのですが、彩子の飛び抜けた点として、そういう表出よりも、私の心を理解して、というのが、私には、恐ろしく感じた、という事なんです・・・
例えとして分かりにくいかも知れませんが、忠臣蔵で大石倉之助が準備万端に用意を整えてから討ち入りを行う事を、陽明学の一派、知行合一の考え方で批判する際に、吉良は高齢であってすぐに討ち入らねば、一生本懐を遂げる機会が失われる、用意を整えるよりも討ち入りするという純粋な心を尊ぶべし、という批判に、に似ていると思うのです。
愛する、が能動の女性を描いた傑作、そして、結局幸田も人を殺した、という意味で同義、というラストはなかなかスゴイですね。 しかし、確かに個人を描いた作品。
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