井の頭歯科

「これやこの」を読みました

2020年8月11日 (火) 09:19

サンキュータツオ著   KADOKAWA
サンキュータツオさんは、芸人であり、日本語学者であり、論文マニアでもあり、アニメーションのオタク的な方でもあるのですが、私はラジオ「東京ポッド許可局」のリスナーとして認識しています。
そんなサンキュータツオさんの随筆集です。最近そういえば随筆という単語を見かける事すらなくなりましたね・・・
落語がとても好きな方ですし、教養のある人、と思います。広くて深い、しかしダメな男子には親和性も高い方だと思います。
落語を身近に、というコンセプトの中、キュレーター的な立場で関わっている「渋谷らくご」でお付き合いのあった2名の師匠、柳谷喜多八師匠と、立川左談次師匠との関わり、その落語との向き合い方、大変興味深く読めました。私は落語については全くの素人であり、お名前も知らない2名の師匠の、その落語との距離というか関わり方を読んで、是非見たかった、と感じました。
しかし、この考え方は大変失礼とも思っていて、やはり現代の、今の、コンテンポラリーなモノを見続けて行かないとワカラナイ種類の理解や感じ方があると思います。私はそれをしていなかったので、簡単に、残念というのは失礼だと思ってしまいます。古典も学びつつ、しかし新作や現代のまだ評価の定まらないモノを見続けてこそ、ある程度の軸が出来上がると思うのです、それにしても人生は短い。その中ですべてのものにかける時間はなく、取捨選択の結果、私は落語を観てこなかったので、そういう感覚を持つ事が失礼に当たると思うのです。
これはどんな物にでも当てはまると思います。
しかし、それとは別として、この随筆集の一貫したテーマは『死』だと思います。そして私は読書にしても映画にしても、死に親和性や共感を覚える感覚がうっすらと、幼少期からある気がします。だからこそ、今を最重要と考えてしまうし、『今』しかないと感じます。
「月曜15時」で語られるロマンチストで現実的な、これぞ見本のようなロマンスグレーの男性との邂逅、「ツインの老人」の摩訶不思議な老人との電話での会話、「黒い店」での古本屋のディープな世界、「バラバラ」の62歳の新人賞受賞者、「拝啓 ジュディ・フォスターさま」の親友とも呼べそうでそうでもない距離感の会話の妙、「空を見ていた」の1枚の写真、そして「鈍色の夏」における京都アニメーションでの事件からJFE東日本の投手・須田の奇跡で回収される日常への戻り方、どの随筆もサンキュータツオさんの、日常や距離感が感じられて、勝手な親近感を覚える。
適度な距離について、もしくはロマンティシズムについて興味のある方に、オススメ致します。
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