春日太一著 文春新書
日本の夏は、先の戦争を考える夏だと思っています。毎年、それなりに考えに至る新しい何かが判明したり、作品がつくられたりしています。
そして、未だに、先の戦争を総括する事が、私自身の中で終わっていません。とても多くの犠牲を払い、誰が、何で、こうなったのか、が全然理解出来ていませんし、自虐的な歴史観とか、自己愛的な歴史観とか、右派、左派とかは比較的どうでも良くて、まだ。この出来事を、それなりの到達点まで達した、という実感がありません。多分死ぬまで無いとは思いますが、それでも考えるのを止めるのは避けたいと思います。
そういう意味で、戦争を扱った日本の映画を、春日太一さんに語っていただくのは、大変面白かったです。
戦争を美化している という批判も 左翼のプロパガンダ という批判も、それぞれ一理あると思う人が、そう訴える事は構わないのですが、相手を自分の思想に染めよう、私と同じ考え方が出来ないなんて馬鹿だ、という人とは話しが出来ないと思います。それに、凄く感情的になる人も、出来たら避けたいです。その人の心情なり矜持が国家に大部分帰属する事を咎めるつもりもありませんが、その人が誰かを批判するのに、日本から出て行け、とか、日本人じゃない、とかという揶揄を言葉にするのは許せないと感じます。あなたは国家と自尊心を一体化させて心地よいかも知れませんけれど、そうではない人を認めないのもおかしいですし、そもそも個人が他人の国籍をどうにか出来るという発想が頭が悪いと思います。ホロコーストまで行ってしまう考え方ですし。もちろん逆も然りで、プロパガンダでない映画なんて多分無いと思います、それなりに、製作者の意向が反映されますし、そもそも意図しなくても映し出される事だってあります。また誤解を含めて映画体験は人それぞれなはずです。
そういう意味で、春日太一さんの解説は、大変クリアで、もちろん完全なニュートラルなんてないんですけれど、ニュートラルであろうとする姿勢、が大事なのであって、完全な中立なんてありませんし、配慮されていると感じます。割合言葉に敏感な養老孟司先生も、この中立と言う意味でNHKを批判されていた事があって、中立になれるなんて神か?と批判されていましたけれど、当たり前ですが、完全な中立なんて無くて、中立を目指す、という姿勢でしか表せないし、だからこそ人は間違うから、中立で無い場合に、検証して、後から訂正したりするんだと思います。そういう意味で安倍政権の議事録を残さない、という負の遺産だけは、せめて時期の方にはなんとかして欲しいんですけれど、難しそうですね・・・
この新書の中では、やはり引っかかるのが、軍部や上官が粗野で暴力的(悪)であり、新入隊する新兵、中でもインテリ(善)という構図は、とても映画を撮る際には都合の良い構図だと思いますが、これが行き過ぎてしまった感は否めないと感じます。軍部ももちろん悪かったと思いますが、それを大半の日本人も支持していたわけで、この辺が、軍部を悪にして、国民はその被害者という偽善の温床になっている気がします。等しく、国民にも戦争責任はあると思いますね。
これから見ようと思ったのは、脚本家 須崎勝彌です。そしてもちろん岡本喜八のスタイル、立ち位置がやはり好きですね。
作品ですと「拝啓天皇陛下様」が観てみたくなりました。
日本の戦争映画にも様々なタイプがあり、戦史もの、情話もの、恋愛もの、様々ですが、でも泣かせるものは、あまり見たいという気になりません。
当たり前ですけれど、戦争体験者が作っている映画は、明らかに体験者ではない人とは違うように見えますね。とても複雑な想いがあるのを、春日さんの解説で理解出来たような気がします。
そして、新たな戦争映画の傑作「この世界の片隅に」の片淵須直監督の対談も読みでがありました。日常から見える戦争、今までに見た事が無かった傑作でしたから。
映画の中の戦争を体験してみたい方に、オススメ致します。とりあえず、岡本喜八監督「日本のいちばん長い日」を観ようと思ってます、リメイクは観ちゃってるので。