岡本喜八監督 ATG
名作「日本のいちばん長い日」は任された監督作品ですし、原作もありました。もちろんそれでも監督の作品、色、におい、を感じます。しかし、今作は、自宅を抵当に入れても取りたかった作品。最も岡本喜八臭が強い作品とも言えます。期待値はかなり上げての鑑賞になりました。
太平洋戦争末期の日本。あいつ、と呼ばれる下級兵士は、素っ裸で訓練させられています。本土決戦に備え、まさにタイトルの通りの、戦車に肉弾として、爆弾を手で持って、特攻をかける訓練をしているのです。そんなある日、24時間休暇を得られたので・・・というのが冒頭です。
まず、主人公あいつを演じる寺田農が、すごく、岡本喜八監督の造形に寄せています。多分、ですけれど、かなり寄せていると感じました。相当キツイ戦争体験だったんだと思います、戦地に行かなくても・・・
製作費、無かったんだろうな、と思います。もっとお金があれば、出来た事もあったと思いますし。ただ、受け手の想像を巡らせ、補完出来るように、作っているのも事実です。
多分、この点が、この作品の評価の分かれ目かと思います。
岡本喜八作品をある程度見ている事が前提になっちゃいますけれど、岡本喜八だったら、という補完、想像が出来る人には、結構響く映画になると思います。悪くなかった。でも、それが出来ない、例えば初岡本喜八作品体験の人には、かなり難しい映画かも知れません。
良かったのは、やはり、古本屋店主の笠智衆ですね。もちろん寺田農も素晴らしかったですし、ヒロインの大谷直子も素晴らしかった。
個人的な死ぬ理由を、欲していた人にとっては、きっかけは何でもよかったんだと思いますけれど、実感を持つってなかなか難しい事ですし。相思相愛であればなおさら、実感を持てたと思います。
ラストも凄く岡本喜八っぽくて、有名な「幕末太陽伝」のラストを監督川島雄三が撮りたかったように撮らせてたら、こんな感じになったんじゃないかな?
私はかなり岡本喜八びいきではありますけれど、とても個人的な映画なんだと思います、撮らなければならなかった映画なんだと思う。
そういう意味で、こういう映画を作らなければならないくらいの体験を、きっと誰しもに与えているのが戦争なわけで、本当にキツい・・・
ただ、平和を望むのであれば、常に戦争に備えよ、という格言の重さも、理解しているつもりです。何しろ相手がいるものですからね。
岡本喜八監督作品を何本か観ている方にオススメ致します。