井の頭歯科

「小林秀雄の哲学」を読みました

2020年11月17日 (火) 09:40

高橋昌一郎著       朝日新書

何度も何度も挫折している小林秀雄の著作・・・本当に何度も読んでみようとチャレンジしても、何度となく跳ね返されて、ついに50歳を超えてしまいました・・・それくらい話しが読めない作家として私の中では稀有な存在です。読んでも意味がワカラナイ、という非常に難解で、しかし私の好きな作家や人物が、必ずと言ってよいほど「影響された人、尊敬している人物」に名前を挙げる人が最も多い人、として認識されてきました。結局今まで1冊も理解出来た、とか言わんとしている事の大筋は把握出来た、と言えない、途中で挫折する事多分10回以上の作家・小林秀雄を、大好きな書き手である高橋昌一郎先生が紹介する新書です。この新書でさえ、3回は挫折しています・・・本当に難解でした・・・が、今回は言わんとしている事の外郭は、ほんの少しだけ、出来た気がします。高橋昌一郎先生の大変分かり易い紹介が無かったら、多分一生かかっても読めなかった作家。そして、今後読む事は、まず無い、と理解出来た作家です。

まず、非常に難解に感じるのは、話しが飛びまくるからなんですね。論理的に読もうと、理解しようとすると煙に巻かれる感じがするのです。そして、共感する、小林秀雄になったつもりで理解する事が重要、と高橋昌一郎先生もおっしゃっていますが、それは最も私が嫌う読み方なので、客観性がまるで生まれない読み方なので、全然理解出来なかったのだ、と分かる事が出来ました。簡単に分かるという単語を使ってしまいましたが、その分かる、は今までの全く理解できない、から相対的に考えて、分かるという単語を使おうとするくらいには、分かった、という事なんですけれど・・・

客観性を捨て去り、小林秀雄になりきって読む、私には全然出来ない、読み方ですし、まずしてこなかった読み方です。100%の信頼や憑依を行う事の危うさ、宮台真司先生も言い方は違いますが「感染する(ミーム)」と言う意味で使われていた時もありますが、私には客観性を手放す事、半信半疑の状態以上に憑依するかの如く読むという事が出来ませんでした。

そして私の好きな作家や書き手は、この小林秀雄の憑依する事でしか読めない、というような書き方は全員がしていないのが、非常に特徴的に感じました。ある種の客観性を持たせて表出する、表現しているのですが、小林秀雄は全然違うんだな、と思いました。例えば直観を鍛える、という言葉を、私はまず疑ってしまいます。直観とは何を持って直観と言っているのか?定義は何処までを指すのか?その上でその大変スピリチュアルな直観をどのようにして鍛えるのか?全然意味不明になってしまいますが、そういういっさいをひっくるめて、理解し信じないと読み進める事が出来ないようになっているのが、小林秀雄の文章だと思いますし、批判を受け付けないのが、恐ろしく感じました。反証できないんです、小林秀雄の世界では。反証を許さない世界を客観的に見る事は出来ませんし、信条的に無理と感じました。

それでも、これだけ多数の尊敬すべき人間が小林秀雄の人間性を好み、尊敬し、敬っているのは、小林秀雄の人間の魅力なんだと思います、凄くジャイアニズムに近い感覚で、という事なんですけれど・・・

もの凄く頭のイイ人ですから、私なんかが考える事は馬鹿々々しい事でしょうけれど、大変ストイックな方でもあり、破天荒な部分もあって、無頼な面さえ持ち合わせた青年期の姿、確かに人気があると思います。反証を許さずに、私のいう事は正しい、という信仰にも似た信頼感がある人には大変刺激的な書物。

小林秀雄が右派から人気があるのは、何となく理解出来ました。多分、この人を持ち上げる事で自分の評価を上げる事に使っている人も多いと思いますし。何しろ自分が思った事が全て正しい、という事に直結しやすいし(あくまで、しやすい、という事。そこに反証を挟む事を、粋じゃないとする感覚)、その事への危険性がほぼ皆無でもイイ、という事になりかねない、と思うのです。

有名な戦争への介入についても、反省をしない、もしくはそういう態度を示さない、という1点に於いて、この人の姿勢が、自身の過ちを認めない、という姿勢に見えるのが大問題だと思うし、その点を、潔いとして評価する人の心持ちが理解出来なかったです。『僕は無智だから反省なぞしない。利巧な奴はたんと反省してみるがいいじゃないか』  という発言が、公になる事を、理解していても、その姿勢を崩さない事を評価、というのが、どうにも飲み込めないんです。 無知である事を肯定するなら、見る事を、生活する事を、どして批判出来よう・・・

およそ独善の人。そして信者からすれば教祖にあたるわけで、それは信者、ですから信仰なので揺らがないですよね・・・

スタイルで言えば、プラグマティズムに近い。そういう意味で同世代とも言えなくない鶴見俊輔の小林秀雄評があれば読んで観たかったです。

私は無神論者なので、そういう意味でも逢わないという事が分かっただけでも、残り少ない時間の中で、もう挑もう、と思わなくなったので、そういう意味でも、著者に感謝致します。

小林秀雄の信者の方に、オススメします。または小林秀雄が全然読めないで困っている人に。

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