井の頭歯科

「花束みたいな恋をした」を観ました

2021年7月30日 (金) 09:23

土井裕泰監督     東京テアトル

7月も終わりに近づいています、という事は、年末まであと5ヶ月しかありません・・・そんなわけで、そろそろ2021年公開作品がDVDや配信プラットフォームに降りてきます。そんな中、まず、私に1番関係ない映画なんですけれど、映画も趣味な方から、これは恋愛映画の形をした、サブカルホイホイ映画なので履修しておくように!とのお言葉をいただいたので、これを機会にU-NEXTに加入してみようと思って観ました。

2020年オシャレなカフェ(と私が書くとオシャレには絶対想像できないのはどうしてなのか・・・)で、ある男女のカップルが、携帯電話から伸びたイヤフォンコードの片方を自分に、片方を相手に耳にして、同時に音楽を聴いています。そのカップルのテーブルを見つめるさらに2つの男女カップルがさらに2組います。1つ目のカップルの男(菅田将暉)はそのイヤフォンカップルを見つつ「彼らは音楽が好きなんじゃない、イヤフォンは両方揃って初めて音楽となる」という趣旨の話しをし、しかしその彼女さんはそれほどイヤフォンカップルには興味がなさそうです。もう1組の別のカップルの女(有村架純)はこの同じイヤフォンカップルを見つつ「ベーコンレタスサンドをベーコンとレタスを別々に食べたら、それはベーコンレタスサンドではないように、彼らが聞いているのは同じ曲じゃない」という趣旨の話をしていますが・・・というのが冒頭です。

これは、結構なあるあるの話し、切り取り方と、タイミングが凄くドラマっぽいのに、起こっている事はごくごく自然な、そういう話しで出来上がった映画です。ですが、それは主人公カップルに自己投影出来る人であって、そういう人はこの映画の観賞後に、自分語りをしたくなる作品だと思います。そして、そうでない人には、きっと絵空事にも感じられるのではないか?と思います、そんな作品です。

そして、果たして、今の20代前半の方々は、どのくらい、本を読み、映画を見て、美術館に出かけ、そしてラジオを聞いているのでしょうか?私は年齢設定として、少し上、つまり現在進行形の男女カップルを対象にしているのではなく、もう少し上の人に向けて作られているような気がします。もちろん文化的なハイソサエティな人たちもいらっしゃるとは思いますけれど、対象としてはもう少し上で、このような経験をしている人に共感、もしくは懐かしさ含む過去の、いや懐かしさ含むからこそのノスタルジー的な甘みの、甘み部分のみを強く(えっと前半が特にですけど)したような作品に感じました。

それと、就活映画として名作過ぎる三浦大輔監督作品「何者」(の感想は こちら )の登場人物と同じ人が演じているので、その点もよりごっちゃになりやすいと感じました。

そしてこれはサブカルホイホイ映画、だということがよく理解できました。tbsラジオ菊池成孔の「粋な夜電波」を聞いている大学生がたくさんいるとは、やはり思えなかったですけれど、個人的にはこの名前が出てくるだけで嬉しくもあります。穂村弘さんが有名になって嬉しいなぁ〜歌人としてのご活躍はあまり追いかけていませんがエッセイ「世界音痴」の衝撃はなかなか忘れられないし、今では文春で連載持ってるし、大学生にも認知されてて良かったなぁ。堀江敏幸さん、あのセンテンスの長い、切れ目のなさや終着点がどこにくるかわからなくて読み進めてしまう読書感はこの人ならではだなぁ「おぱらばん」懐かしいなぁ、「回送電車」も素敵だったしなぁ。今村夏子さんは「こちらあみ子」しか読んでないからなぁ。舞城王太郎のデビュー作「煙か土か食い物」からホント絶好調だったよなぁ、この人の擬音表現は本当に面白いしオリジナルだなぁ。などとオジサンのサブカル読書遍歴を妙に抑えてくるのは個人的には嬉しいですけれど、2015年に大学生の人が読んでるラインナップにはなかなか見えなかったなぁ、もっと新しいものを読んでいる気がします。

しかし、そういうサブカル以外にも、いわゆる男女カップルがやるであろう色々な事を、菅田将暉さんと有村架純さんで見せてくれたら、それは誰でも自分の過去バージョンを美しく思い返せると思います。ええそれをファンタジーと人は言いますけれど。

菅田将暉さんは凄い役者さんですね。男性として、凄く整った、とは多分言えないし、体つきも普通なんですけれど、表情の多さ、多彩さ、屈託のなさはちょっと同じような人見たことがないです。有村さんも大変美しい上に、どこにでも居そうでいない感があっていいですね。この人は詳しく知らないですが「何者」の時も、なんか特徴が無いと言っては失礼なんでしょうけれど、周囲の役者さんがあまりに良かったので個人的な印象では埋もれてしまった感がありました。でも旬って感じがお2人からしますし、だからヒットしたんだと思います。

こういう出会いがない人もいるでしょうけれど、流石にここまで、たくさんの偶然が重なる事は無いと思います。それでも、もし、こうであったら、という幻想としては素晴らしいファンタジー。

終わり方も、凄くドラマっぽくて悪くないです。あと、この2人はきっと良い友達になれると思います。恋愛関係は必ず、ええ、断言しますけれど、恋愛感情は必ず終わります。そういう風にできていると思いますし。経験的にも、理解できますけれど、割と若い頃は認められませんし。恋愛関係は終わりがありますけれど、友人関係は割合長く続く事が多いと思います。それにまぁ恋愛関係は酔っ払いのようなもので、それは心地よく酔っ払っているのは気持ちいいのですが、日常生活を送るのには酔っ払ってばかりはいられませんから。

それと指摘しておきたいのは、好きなことを仕事にするのはとても大変で難しく、そして好きで居続けるのはもっと、もっと難しい。私は好きな事は趣味にした方が良いと思いますし、仕事は仕事としてやりがいある事にするのが良い距離感です、自分の場合は、ということになりますけれど。

この映画を観た若い方々は、恐らく名言と捉えられる言葉がたくさんあるのも面白いと思います。私にとっての大学生の時に観たロブ・ライナー監督作品「恋人たちの予感」と同じように心に残る人もいらっしゃるでしょうし、それは素晴らしい事だと思いますし、残念ながら私の場合はオジサンとして感性が死滅しつつあるので響かない作品として記憶に残る感じです。でも、50を超えて、この作品に喰らう人もいるかもしれない、自分ごととして受け止められる人もいるかのしれません、それはそれで凄いと思う一方、恐ろしいことなのではないか?とも思います。20代でこの映画を観た人には響くかも知れません。

私が心に刺さった言葉は「始まりは終わりを内在している」と「猫に名前をつけるのは最も尊い行為の1つである」(この言葉には元ネタがあると思うんですけれど、ちょっと思いだせない悔しい)の2つです。

恋愛関係を見ていると、見ている私(を客観視している私)が恥ずかしくなりますね。

こんなに綺麗な最後なら、別にもう新しく相手をどうするとかじゃなくてよくなると思うんですけれど。ま、まだ若いからかも。

それと、是非この映画が面白いっていう人はデレク・シアンフランス監督作品「ブルー・バレンタイン」とアスガー・ファルハディ監督作品「別離」を観たらいいと思う。きっといかにこの映画が優しく、そしてある意味ゆるいか?というのが分かると思う。

恋愛映画ではなく、カルチャー全般に、特にサブカルチャー(ってこの言葉も賞味期限が近付いている事でしょうね)に興味のある方にオススメします。

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