ハル・ハートリー監督 ポッシブルフィルムズ
U-NEXTには、NetflixやAmazonprimeには無い映画が結構、いや、かなりあります。その中で特に、というのがハル・ハートリー監督作品です、7つもあります!
以前に観たのは「トラスト・ミー」だけなので、是非見たいと思っていました。
1992年の作品、1992年って言ったら私は大学4年生で、地方の大学に居ましたので、残念ながらあまり映画に触れる機会が少なかったです。
強盗事件の最中に目隠しした警護員に話しかける男ビル(ロバート・ジョン・バーク)、しかし強盗は成功したのですが、ビルの彼女であるヴェラは強盗のもう1人と出来てしまい、2人に一緒に去られてしまいます。その頃ビルの弟デニス(ビル・セイジ)は偉大なプロ野球選手でショートストップであった父を訪ねて警察に向かうのですが・・・というのが冒頭です。
ハル・ハートリー監督はこれが2作目なんですけれど、こんなにも不条理と、その対応を巡って人の優しさを扱った監督っていないと思います。
もちろん細かい部分で気になるところもありますよ、結末が前作「トラスト・ミー」と似てる、とか、説明が足りない、と怒る人も居るかも知れません。なんにも起こんないじゃないか、と言う人だっていると思います。しかし、観客がこの作品を理解しようとすれば、とても芳醇と言って良い大変豊かな物語であり、音楽であり、映画だと思います。これは90年代でハマった人多いんじゃないでしょうか?私は全然知らなかった監督なので、2019年にアップリンク吉祥寺でハル・ハートリー監督特集を組んでいただけなかったら、まず観れていなかった監督です。その時見た「トラスト・ミー」はかなり心に残ってます。
強盗で兄であるビルの粗野なんですけれど、母親にはお金を渡してしまい、自分はすっからかんなのに、それでも弟に失恋の話しをしてしまったり、とある人物に割合すぐに惚れてしまったりと、とても感情の起伏の激しい人物ではありますが、その根底に、他者への優しさが滲み出ていると感じます。
大学生の弟も同様に、奨学金を母親に渡してしまうお人よしです。しかも弟は父に会った事がありません。ですからこの物語の原動力は父に会いに行く、という凄く狭い意味でのロードムービーなんです。
なにしろNYからロングアイランドまでって、まぁロングアイランドの何処なのか?私は海外渡航経験が無いので分かりませんけれど、マンハッタン島の隣の島がロングアイランドですから、めちゃくちゃ近いという感覚があります。この狭い範囲でのロードムービーなんですけれど、手作り感満載なのに、つまりお金は全然かかっていないのに、センスだけで出来上がっているような、監督のこだわりをとても感じる作品です。
音楽が凄くカッコイイんです。ギター1本のBGMが印象的だし、グリーンスリーブスも素晴らしかったし、もの悲しくもなります。リチャード・バック著村上龍訳集英社文庫「イリュージョン」と言う本の中に救世主が出てくるのですが、その救世主・ドナルド・シモダが下界で最初に覚える歌がグリーンスリーブスなんですけれど、私はこの作品のこの歌は、勝手にドナルド・シモダに向けたCUTだったんじゃないかな、と思っています。それぐらい良かった。
すごく奇妙なダンスシーンがあるんですけれど、突然、何がリアルなのか?解らなくなってしまうかのような歪さがあるのに、でも、新鮮で観たことがない。どうしようもなく心に残ります。この衝撃度は、私の中で神格化されているレオン・カラックス監督「汚れた血」のデビッド・ボウイのシーンと同じくらいのショックがあります。
シンプルメンのダンスシーン
汚れた血のランニングシーン
どっちも最高です。
これは凄く流行ったんじゃないかな、と思います。私は全然気がつけなかったです、地方に住んでいたので・・・凄く残念。
出てくる登場人物も割合癖のある人物なのに、基本的にはみな優しさを根底に持っている、そんな人々の話し、私は大変面白かったです。
U-NEXTにも入っていない1作目の「アンビリバル・トゥルース」が凄く見たくなりました。
なんとなく、日常生活に疲れている人に、オススメします。