山中貞夫監督 東宝
結構前からいつか見たいと思っていましたが、なかなか腰が上がらなかったのですが、生活に疲れている今はもしかすると良い機会なのかもしれない、と思いAmazonprimeで観ました。
皆様が名画に挙げているのを深く納得した次第。
個人的には、人情とか母子の共依存とかをどちらかというと嫌っていますし、江戸時代の『粋』とか『通』とかは確かに生活の美意識を見て取る事が出来ると思えるのですが、それってすごく江戸時代という身分制度の厳しさと共に、大変卑屈な生活からのやせ我慢を肯定する事のような部分もあると感じていて、あまり好ましい印象を持っていません。この映画の中でも、冒頭、いわゆる隣組のような仕組みが見受けられます。
しかし、それでも、非常に悲しい物語でもあるのに、僅か86分に収まっている場面、その転換、構図、光と影、対比、様々なモノが美しく輝いて見えました。
確かに名画だと思います。
しかし、惜しいのが、このフィルムの保存状態で、やはりちょっと、いや大変な損失だと思います・・・それを言ったら、28歳で戦死された山中貞夫監督の遺作であるというのも、非常に悲しく、偉大な映画監督になっていたのではないか?と夢想します。
役者さんにも驚きがあり、その当時の任侠モノがどのような生活であったのか?公開は1937年、昭和12年であり、この時代でさえ江戸末期だとしても70年以上前の出来事を映画化しているわけですけれど、今の私が想像する江戸よりもかなりリアルな所作に満ちていたと感じられました。しかも役者の所属が前進座って、え、あの吉祥寺の前進座?って調べてみるとその通り観たいです。
この映画の中の、私は『うなだれる』とか『途方に暮れる』という仕草に非常に感銘を受けました。肩の落とし方、もの悲しいどうにもならない虚無感、余韻があります。
構図も素晴らしく、想像させる余地を残すのが、たまらなくカッコイイです。左上に月、右下に川面があり、真ん中を斜めに横切る橋の上での男二人の対決、そして光る刃物からの暗転のダイナミズム!本当に凄かった。
これは小林正樹監督「切腹」(の感想は
こちら )のようでもあり、しかし武士の心意気だけではない庶民の生活も描いていて、円環構造と言い、本当に映画そのものが美しいのです。
4Kリマスターされているそうなので、なんとか見ないといけない、と決意しました。
そして、この「人情紙風船」をもって遺作となった事について監督山中貞夫が『紙風船が遺作とはチト、サビシイ』と言っているだけに、もっと作品が作られていたら、と思わずにはいられません。
モノクロ映画が好きな方、日本映画の傑作を観たい方にオススメ致します。