吉田恵輔監督 スターサンズ
吉田恵輔監督の最新作、ついこの間観た「ブルー」(の感想は こちら )も今年の映画でした。
添田(古田新太)は漁師で非常に荒っぽい男、昭和な男性です。娘は中学生で、母(田畑智子)は既に添田とは離婚、再婚して妊娠中です。中学校でも浮いている娘は担任にも自主性が無い事を指摘されているのですが・・・というのが冒頭です。
非常に込み入った話しですし、大変暗い、救いが無い話しとも言えます。娘を持つ父が観るとかなり動揺しそうな映画です。ですが、極めて特殊な状況、特殊な脚本なんですけれど、だからこその現代の日本を描いていて、それこそマスコミの報道、いや報道じゃなくワイドショー、の現実を見せてくれたりします。
事の発端は父との関係性、もっと言うと大変高圧的な父に関係性が結べない娘が万引き未遂(?)を起こして店長に補導、その補導から逃れ店外へ走り出し、店長(松坂桃李)が娘を追いかけ、その逃走中に車に轢かれ、反動で反対車線にまで飛ばされた娘をさらにトラックが轢いてしまうという痛ましい事件が起こります。
当然、万引き未遂ではあり、店長の対処の仕方にも問題があるのですが、もちろん飛び出した娘にも問題があります。そして、ここから本当にどんどんと物事が複雑にこんがらかっていきます。
今まで吉田恵輔監督は、ここまでシリアスな事象を扱ってこなかったと思いますし、ふとした笑いさえ封印したと思いますし、全く別な監督の作品に感じられるくらい、変わっています。凄いチャレンジですし、そのレベルが非常に高いと思います。
恐らく、主人公は2人、添田という古田新太さん演じる非常に父権的価値に身を置き、その事を自覚もし、そして漁師という仕事には真摯に取り組んできた、家族とどう接して良いのか分からない初老の男と、何となく家業を引き継ぎスーパーを運営する何かの取り柄があるわけではない地方スーパーの店主であるアオヤギを演じる松坂桃李さんです。
この2名に対して周囲の人間まで描き切っているのが今作です。ただし、大変重い映画だと思いますし、まさに現代を描いているんですけれど、この映画の英語タイトルが「intolerance」ちょっと引くぐらいの英語タイトルです・・・不寛容・・・確かにこれは空白というタイトルよりも、不寛容、というタイトルに今からでも変えた方が良いのではないか?と思ってしまいます。
とにかく、古田新太さんも、そして松坂桃李さんも、かなり限界に近い表現をしていて、役者さんって本当に凄いな、と思いますし、その演技を引き出さざるを得ない脚本が凄い。
これを商業映画として成り立たせる吉田監督は確実に1段上の監督になっていると思いますし、それでもここまで描けてはいるのですが、同じ不寛容について理知的に戦い、商業映画ではない戦い方を選んで、しかもスクリーンに載せた春本監督の「由宇子の天秤」(の感想は こちら )は本当に凄い作品だと感じました。
「由宇子の天秤」を観ている方にオススメ致します。
アテンション・プリーズ!
ココからネタバレありの感想になりますので、鑑賞された方に読んでいただきたいです。
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物語的には父性についてという部分にスポットが当たっていると思いますので、添田が本当の意味での主人公なのでしょう。そしてこの添田への物語としての結末は、美しいと感じる人もいるでしょうし、成長と捉える事も出来ると思います。心の置きどころ、絶対に取り返せない、手遅れになってしまい、且つ自身の執着の落としどころ、そういう意味での添田には成長と救いがあります。別れた妻も、そして弟子の男の子も、何気にこの添田には寄り添う人間がいる。そして、寄り添ってくれるのは添田の人格や愛嬌ではなく、別れた妻としての責任や、亡き父親への憧憬であって、添田が発したものでは無い部分に、まだ添田は救いがある。偶然にも。それにそもそも娘に何処までの関係性があったかはなはだ疑問であり、生きているうちにしか伝える事の出来ない、生活の中にしか、今しか何かを変える事が出来ない事をないがしろにしてきた添田に救いがあっても良いが、それにしてはアオヤギの悲惨さが、とてもキツい。
アオヤギの救いが、果たして救いであったか、この後にいったいどんな人生が待っているのか?を考えると、非常に暗い気持ちになります、もう少し脚本として、アオヤギへの配慮があって欲しかった。凄く難しいと思うけれど、私はあまりに救いが無い、そう感じました。そして、まさにその役柄をすべて背負っての演技を見せる松坂桃李さんの役者としての凄みも感じられました。
知らない誰かからの何気ない一言でのやりとりに、確かに非常に薄く、同時に細い、それでもな救いの希望を見出せる可能性は、映画内で示されたと、取れなくもない。
ですが、私はもう少しアオヤギに救いがあって欲しかったです。
特筆すべきなのはもう1人居て、それが最初に事故を起こした車の運転手が自死を選び、その葬儀にやってきた添田に対する母親のセリフです。重く苦しく救いが無く、そして哀しい。それでも親として今後の提示をして見せるこの母親の重みは説得力以上の何か、演技のマジックがあったように感じました。人は皆が苦難を乗り越えられるようには出来ていないと思いますし、加害者が更生する事の難しさ、それこそ自分に対しての罪の背負い方への不寛容という、自分ではどうする事も出来ない事の重さを考えると、とても恐ろしくなります。
中でも、最も恐ろしいのは、編集して面白おかしくするショーに仕立て上げるテレビ(果たしてワイドショーなるものはマスコミなのでしょうか?個人的にはテレビの中でもワイドショーは今すぐに取り除くべき害悪にしか感じませんし、恐ろしく下劣で下品なモノだと思います)ではなく、クサカベというパート店員です。
寺島しのぶさんの演技は、演技に見えないくらい、こういう人なんじゃないかな、と思えます(顔だけで判断は良くないと思ってはいるものの、しかし実際にこういう人なんだろうな、と思ってしまっている自分がいます、演技とか、そういう事じゃなく顔が嫌いなんだと思う)。怖い。凄く怖いし、善意、というタテマエを背負った無自覚さの下に隠されている欲望の恐ろしさを感じずにはいられませんでした。これは当然男女の差が無く、多分男女を入れ替えて今までも繰り返され続けているのであろう光景にも見えるのが、本当に恐ろしい。 結構なヘヴィー作品ですね・・・