ジョン・ワッツ監督 MCU
MCU弱者(=M弱)の私が友人から今度のスパイダーマンは傑作、2022年のNo.1はこれで決定、という話を聞き、是非観た方が良いですよ、という激推しがあったので、過去作から始めました。で今作は6作品目です。
コロンビアで制作されていたスパイダーマンはトビー・マグアイヤ主演作が3作品あり、ついでリブートしたのがアンドリュー・ガーフィールドのアメージング・スパイダーマンでこれが2作品あります。
ざっくり、トビー・マグワイヤ3作品は、クラッシックなヒーロー譚であり、ヒーローの葛藤を描いていますし、ロマンスもあるし、友情だってあります。ですが、敵側の細かな事情、悪にも理由がある、みたいな部分は割合カットされていますし、頑張って内面、心理描写を描いてはいるのですが、お子様でもわかるようにしているので、オジサンからするとどうしても今一つ乗れませんでした。それとこの3作品の本当の主役はスパイダーマンの彼女になるMJでして、これが見事なほど心変わりしかしない女の人になってて、運命に翻弄されるのが好きな少女漫画の主人公的な描かれ方で、大変味わい深い作品ではあります、私は好きじゃないですけれど・・・
リブートしたアメージング2作品は、高校生を主人公にしているので、学園生活とヒーロー生活の二足の草鞋的な忙しさを全面に出しています。ヒロインはエマ・ストーンですし、血脈に重きを置いている、家族の物語になっています。ただ、凄く豪華ではあるのですが、詰め込みすぎでどうにも上手くないんです・・・それぞれに輝く場面、という見せ場が少なく、あくまでスパイダーマンが輝くだけなんで、その為に作られたキャラクター、という風に見えてしまうのです。彼らの個人的な理由や意味が大変少ない。なので、考え浅!と見えてしまうのが残念なんです。
それでも、個人的には新しくなればなるほど、映像の新鮮さ、そしてそれなりの工夫がなされていて、1番新しいアメージングの2が1番面白いと思えました・・・
しかし、このMCU作品を見て、今までの5〜6倍は面白かった、映画で見たい要素がほぼ全て詰まっている!と感じました。
今までの5作品の感想は、ま、こんな感じ、で出来ましたけれど、この作品群はそういう事をしたくない。少し時間をかけて何を感じたのか文章にしてみないと思考が固まらない頭が悪い人なんで。
アベンジャーズに入りたい高校2年生のピーター・パーカー(トム・ホランド)はなんとか仕事はないか?とマネージャーであり唯一連絡できるアベンジャーズの運転手(?)であるハッピーに報告する毎日です。しかしほとんど連絡が来ないので・・・と言うのが冒頭なんんですけれど、ちょっとよく分からない、多分MCUの他の作品を見ていないと判然としない絡みのシーンから始まりますので、びっくりしました。
今までは必ず、というか全てのスパイダーマンは、普通の高校生が、蜘蛛に噛まれて、蜘蛛の特性を発生させて行き、スパイダーマンになるまでの話があるはずなのに、それがなく、最初からスパイダーマンなんです。ここがめちゃくちゃ新鮮。いきなりなんでちょっとびっくりです。
さらに、高校2年生、と言う学年を1つ下げただけに見えかねないのですが、これが素晴らしい効果を産んでいます。すっごく子供なんです、今回のスパイダーマンは!!ここが本当に素晴らしい。
子供だけれど、ある程度の身体能力が向上されているヒーローで、そのヒーローについても、憧れだけがエンジンになっているので、責任を伴う、と言う感覚がありません。当然、ロマンスなんてほとんどなくて、淡い。でもこの淡さが、ものすごくイイ淡さなんです、そんなことよりも犯罪と戦うことに興味があるのが普通に感じられるんです。
今までのスパイダーマンはトビーもアンドリューも、仕事もしてるけど、恋にもうつつを抜かしてるよ〜みたいな感じで、もちろん必死なんでしょうけれど、彼女の心配しながら活動しつつ、車が爆発したりすると、その中の被害者には彼女はいないけれど、確実にいろいろ怖い目に遭ってる人がいるのに、都合良すぎないか?みたいな感覚になるのですが、本作は全然違う。ヒーローの力を持て余している、憧れているヒーローの未熟さがあるんです。
まず、ちゃんとスクールカーストではかなり低い。ここ重要で、だからこそヒーローとしてのギャップが発生するのに、いい感じに今までのスパイダーマンは、別に普通にいい人じゃないか、しかも顔までいいんだから、当然彼女もいるよな、的なカーストの中にいて全然低くないんです。
当然、カースト低い友人がいます。このネッドが大変素晴らしい。親しくも、自分がどういう人物であるかを引き受けている覚悟も持ちつつ、協力体制がある。ちゃんと一芸に秀でていて。それを生かす、ネッドが輝く場面がちゃんとあるのがこの映画の格を上げています。ネッドの活躍シーンは本当に素晴らしいし、笑いのセンスがサイコーです。
それにネッドとやる手の動きの挨拶、あれなんて名前で呼べばいいんでしょうね?いつも困るけれど、名前がわからない。そして私も誰かと練習したいしやりたいのに、そういう友人がいない・・・ああ、誰か一緒にアレ練習しませんか?その前に、誰かコレの名前教えて〜検索の仕方さえ分からない・・・
高校の部活も考え抜かれていて、学力コンテストに出場する部、日本だとクイズ研究会みたいな感じで、凄くいいと思いました。運動部じゃないし、文化系でもそんなに目立つ部じゃないけれど、頭脳が試されているし、何より女性がいても不思議にならない。
クラスメイトや部活の生徒にも細かな神経が張り巡らされていて、とにかく多様な人が多いし、私はすぐ分かりましたけれど、「ナイスガイズ」(の感想は こちら )のヒロイン、アンガーリー・ライスさんが、高校のキャスター役で出ている!それにピーター・パーカーが思いを寄せるリズが、なんとなく分かる、見た目ももちろん素晴らしいのだけれど、それだけじゃない良さを、頭の良さも感じさせてくれてイイんです。大会前の日の反抗的行動が結束力を高める、なんて高校生が言うの背伸び感があって、ダメ男子ならやられてしまうでしょうねぇ。
それに1匹狼っぽい女の子の、完全に1匹狼になれているわけでもない部分、優等生リズに恋してるピーター、に好意がある1匹狼ミシェルと言う構図も、高校ならではな感じで最高ですし、群像劇をやるなら絶対に必要です。いじめっ子のフラッシュのいじめのやり方が1つしかない上に下ネタなのも、お馬鹿な感じがあってそれなりの好感度がありますし、このフラッシュでさえ、いい気味!みたいな感じではありますが見せ場が用意されているんです。こういう細やかな気遣いは映画を作る上でバジェット的な予算とか特殊効果の技術的進歩なんてまるで関係ないと思います。こう言う脚本の段階で練れる事を全て詰めておくってものすごく大切だと思うのです。高校を舞台にした傑作映画「Superbad」(邦題が酷すぎるので原題)と同じくらい配慮がなされています。
ダメ男子が憧れるヒーローに近づく、そんなヒーロー映画。基本ギャグで始まり、現実を見せられ、挫折も味わい、そして成長する物語。こんなの最高じゃないですか。初めてMCU作品で好きだと言える作品に出会いました。と言っても、5作くらいしか見たことないんですけれどね。
あと、確かに憧れであり、父性を全面に出してくるアイアンマンが、私はどうにも好きになれないなぁ・・・この人、ジャイアニズムに見えるし、実際この人のせいで全てが面倒になっていき、その後片付けをしている感じに見えるんですよね・・・
また、悪の側の理由、素晴らしい見せ方だったと思います。ネタバレは避けての感想なんで細かく言えないけれど、あのドアを開けた瞬間の恐怖は、本当に素晴らしかった。
悪の側にさえ家族の問題があるのが素晴らしい。誰だって生きていかなきゃいけないし、その描き方、仕事の奪われ方、その点を描いているのは本当に素晴らしい。だからこそ、ここにマイケル・キートンの重みがあるのが意味がある。
音楽の使い方も、かかって欲しくない時はBGMがかかってない、と言うだけ過去作とは一線を画す存在です。盛り上げたいのは分かるけれど、その場合はもう少しタメが必要だと思う場面が過去5作にはたくさんあったけれど、この作品には見当たらなかった。
MCUを少し馬鹿にしていたけれど、こんなに面白い作品があるなら、これはかなり期待してしまう。
しかも、監督は『コップ・カー」の人じゃないですか。
さて、では次に行きましょう!残り2作への期待が嫌が応にも高まります。